時間に縛られないノンビリ暮らし。
世界樹の実を手に入れた後から、猫神様による拳法レッスンが始まった。
「聖夜は健康であらねばならん。毎日身体を動かすことが大切じゃぞ」
と言う猫神様が教えてくれるのは、猫の動きをアレンジした猫神流拳法、【
毎朝1粒世界樹の実を食べて、猫拳を習うのが俺の日課になった。
世界樹の実は24時間自動回復効果があるので、仕事前にレッスンしても全然疲れない。
そんな異世界生活も半月近くなった頃。
「今日は肉を狩りに行こうかの」
「何の肉?」
「クリムゾンボアじゃ」
「どんな生き物?」
「豚っぽいヤツじゃよ」
獲物の名前を言われても分からない。
豚っぽいのは分かった。
猫神様に言われるままについていった俺。
「ほれ、あいつじゃ」
「え……」
緑の森の中、そいつはいた。
豚かといえば、確かに豚の仲間っぽいけど。
牙があるそいつは豚じゃない、紅い毛色のイノシシだ。
「今朝も回復の実は食べておったな? 死にはせんから挑んでみるがよい」
「マジっスか」
「うむ」
若干無茶振り感があるクリムゾンボア初狩りが始まった。
「ヤツは突進が得意じゃ。牙を避けながら首を狙ってみよ」
「難易度高いなぁ」
紅のイノシシは、前足で地面を掻きながらこちらを睨んでいる。
突進される前に突進してやる!
ダッシュで行った俺は、ブヒッ? と言われてあっさり避けられてしまった。
「ほれ、気をつけい、蹴りがくるぞ」
「え?! うわぁっ!」
蹴るなんて聞いてないよ~
飛ばされながら、俺は心の中で呟いた。
スローライフって、サバイバルのことだったんだね。
世界樹の実が無かったら大怪我で動けなかったかもしれない。
瞬時に治るけど、痛いもんは痛いからね?
「どうじゃ? そろそろヤツの動きが視えてきたのではないか?」
猫神様の言うとおり。
突進されたり蹴られたりするうちに、その動作をする前の前触れというのか、予備動作みたいなのが分かってきた。
これから何をするか予測できたら、突進はそんなに危険ではなくなる。
「ブヒッ!」
クリムゾンボアが前足で地面を掻き、腰をグッと沈める。
それは、突進の合図だ。
俺はギリギリでクリムゾンボアを躱しながら、その首に爪つきナックルをお見舞いしてやった。
猫神様がオラオラ鳥の首に叩き込んだのと同じ系統の攻撃、ネコパンチ。
俺には猫みたいな爪は無いので、小刀みたいな爪が4つ付いたナックルを使用する。
狙いは勿論、首の横にある頸動脈。
「ブギィィィッ!」
クリムゾンボアが絞め殺される豚みたいに叫び、首から血を吹き出して倒れた。
ピクピク痙攣した後、動かなくなった紅いイノシシを見て、やり遂げた感が脳内に広がる。
……が。
「よくやったの。次は血抜きじゃ」
もう一仕事あった。
血抜きといえば、オラオラ鳥に猫神様がやってたアレですね……
殺ったもんはしょうがない。
俺はそこらの蔦で獲物の脚を縛り、太い枝に蔦を投げかけて獲物を引っ張り上げて吊るす。
その後、俺の風魔法でクリムゾンボアの頭と胴体がオサラバしたのだった。