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第15話:バナナっぽいもの


 異世界の庭(無人島)では、様々な果実が手に入る。

 俺のお気に入りは、バナナに似たやつ。

 スーパーで売ってるバナナよりもモッチリした食感で、糖度が高い。

 ほんの少し酸味があるのが、濃厚な甘さを引き締めている感じで美味い。

 食べ頃は、皮が黄色くなってから更に放置して、黒い斑点が出てきた頃。

 スイートスポットっていうんだっけ?

 シュガースポット?

 まあどっちでもいいや。

 スーパーのバナナだと値引き販売し始める頃だね。


「ん~美味い! もうスーパーのバナナが食えないかも~」

「果物なら金を出さずとも森で採集すればよいぞ」


 そんなわけで、俺はスーパーで果物を買わなくなった。

 肉も狩りで手に入るので買わない。

 猫たちが食べる物も自分が食べる物も、大体が森で手に入る。

 現実世界で買う食材は、小麦粉や米くらいだね。

 スローライフを極めるなら小麦や米の栽培を始めるところだけど、俺はそこまで気合の入った異世界生活をする気は無い。

 現実世界に帰れば買えるし、ぷち自給自足でいいと思う。


「ルカ、メシだぞ~、今日はクリムゾンボアのしゃぶしゃぶだよ」

「みっ、みみっ」


 段ボール箱の中にいるルカに声をかけると、すぐに可愛く鳴いてお返事してくれた。

 ルカの晩ゴハンは生成で作ったドライフードを主食に、お肉をオカズに添えてみた。

 俺が跳ね飛ばされたり蹴り飛ばされたりしながらどうにか狩った紅イノシシは、猫神様に解体方法を教わって解体した後、異空間倉庫に保管している。

 ブロック肉の状態で保存しているそれを、スライサーで薄切りにしてしゃぶしゃぶ用にした。


「クリムゾンボアってジビエ系なのに、獣臭さが無くて脂身に旨味があるんだね」

「森の木の実を食しておるからな。この世界でも味に差があるが、この島のは美味い筈じゃ」


 話しながら、猫神様はタレなしで湯がいた肉を美味しそうに食べている。

 ルカはといえば、大口を開けてガツガツと食べ終えて、今はドライフードに移行していた。

 俺は湯がいた肉と山菜にぽん酢醤油をかけて、白飯と一緒に美味しくいただいた。



 神の島で採れた物を食することを、俺は特に何も考えてなかった。

 世界樹以外の物にも何かの効果があると知ったのは、バイト先で力仕事をしたときだった。


「来栖くん、これ運ぶの手伝って~」

「はーい」


 ドラッグストアの倉庫内、洗剤などの重い物が入った段ボール箱を指差して、御堂さんが言う。

 頼まれた俺はそれをヒョイッと持ち上げてしまった。


 あれ?

 これこんなに軽かったっけ?


「凄い、来栖くん細いのに力持ち~」

「おぉ、来栖すげぇな」

「はいはい、どんどん運びますよぉ~」


 御堂さんがニコニコしながら拍手している。

 荷運びを手伝いに来た筈の男性従業員たちまで拍手しながら見ている。

 結局、褒められて調子に乗った俺は、全ての荷運びを1人で終わらせたのだった。


「来栖くん、お疲れ様。疲れたんじゃない?」

「全然なんともないですよ」


 荷運びが終わると、御堂さんが試供品のチョコレートをくれた。

 バレンタインじゃないのが残念だ。

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