「ちぃ~、ちぃ~」
「はい、かわいいの頂きました」
「み?」
異世界でノンビリタイム。
俺は居間に置いてある段ボール箱の前で胡坐をかいて座り、仔猫たちを1匹ずつ手に取ってスマホを向けている。
その周りをゴロゴロ言いながら周回しているルカが、俺の言葉にキョトンとして鳴いた。
「なにをしとるんじゃ?」
「職場の猫好きさんにリクエストされて、仔猫たちの撮影をしてるんだよ」
猫神様もやってきて訊く。
猫画像のリクエストは、派遣先のドラッグストアの人々から。
特に御堂さんが仔猫画像を楽しみに待っている。
「里親探しでもするんかの?」
「それは特に考えてないなぁ」
仔猫を拾った人が貰い手を探すことはよくある。
中にはペット禁止の賃貸住まいなのに拾っちゃって、短期間で引き取り先を見つけようと慌てる人もいる。
大体は地域の保護団体に相談するようだが、保護団体も100%引き取れるとは限らない。
キャパシティってやつがあるからね。
飼養可能枠が空いてなければ引き取れないだろう。
「猫5匹飼っても生活に困らないから、このままみんなうちの子にするよ」
「ほう、覚悟を決めたか」
家賃も光熱費も交通費もかからない異世界暮らし。
猫たちが食べる物は全て森や海で手に入る。
おかげで薄給でもゆとりのある生活が送れるようになった。
「無人島だから鳴き声とかで苦情がくることは無いし、ほとんど生活費がかかってないから5匹いても平気だよ」
「そうじゃな。かかる生活費はそなたのスマホの料金とここで手に入らない食材を買うお金くらいじゃの」
スマホは現実世界にいるときしか繋がらないから、自宅にいるときは電源を切って寝室に置きっぱなしだ。
職場から早出の依頼がある場合は、メッセージアプリに連絡を入れておいてもらい、通勤時に確認して早出だったら時間を遡って出勤している。
お金にも時間にもかなり余裕がある異世界暮らしを、俺はすっかり気に入っていた。
余裕があるから、ルカたちを母子揃って飼おうという気持ちになれるんだろう。
「ずっと一緒に暮らそうな、みんな」
「みっ」
ルカファミリーに声をかけても言葉が通じることはなく、ルカがなんとなくお返事してくれる。
チビたちは話しかけられていることすら気付かず、スヤスヤ寝ていた。
「公園でいきなり猫を飼えって言われたときはビックリしたけど、今はそれが凄い幸運だなって思うよ」
「み?」
「幸運というか、それがそなたの運命かもしれんがな」
猫神様が運命を語る。
あの日、あの場所を通り、ルカたちと出会ったのは俺の運命なのか。
猫神様に選ばれて異世界で猫を飼うことになったのは、元々定められた未来だったのかな?