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第17話:黒猫は撮影に苦労する


「いやぁぁぁ、かわいぃぃぃっ!」

「あたしキュン死しちゃう!」

「まだ猫っぽくなくて何か違う生き物に見えるけど!」


 職場の休憩室にて。

 仔猫たちの画像をお待ちかねの女性陣に見せたら、めちゃくちゃテンション上がっていたよ。

 普段は落ち着いた雰囲気の御堂さんまで、キャラ変わってない? ってくらいにキャアキャア盛り上がっている。

 休憩室の前を通り過ぎる男性スタッフたちが、何事だろう? って顔して入口からこちらを覗いていく。


「あたし、キジトラ大好きなの」

「茶トラは甘えん坊が多いらしいよ」


 メッセージアプリで仔猫たちの画像を送ってあげたら、みんなの待ち受け画像になってたり。

 茶トラは甘えん坊が多いのか。うちのソル(茶トラ)はまだよく分からないな。


「黒猫って顔の撮影が難しいのよね~」


 と言うのは御堂さん。

 確かに、他の子に比べてルナ(黒猫)は撮影しづらかった。

 目も鼻も目立たなくて、顔をアップにしてもどこに目がある? みたいな感じになることが多い。


「黒猫は、天井とか明るい方を向かせて目に光が映るようにするといいよ」

「そんな撮影技があるんだ」


 御堂さんは左手でキツネの顔の形を作り、天井の蛍光灯にその顔が向くようにしてみせる。

 なるほど、今度それやってみよう。

 異世界の自宅天井にあるのは蛍光灯じゃなくて、光魔法を付与した魔道具だけど。


「うちのワンコ黒犬で、普通に顔を撮っても目がどこにあるの? ってなるから撮影法を色々試したの」


 そう言って、御堂さんはスマホのファイルに保管している愛犬の画像一覧を見せてくれた。

 そのファイルにある仔犬の頃の画像は、何枚かが目が写らずシルエットみたいになっている。

 たくさんの画像から、御堂さんがそのワンコに注ぐ愛情が感じられた。

 俺のスマホも、日に日にルカたちの画像が増えているよ。


「ねえねえ、この子たち、里親募集するの?」


 しばらく仔猫たちの画像を見て「かわいい!」を連発していた御堂さんが、予想通りの質問をしてきた。

 まあ、普通は仔猫4匹もいたら里親を探すよね。

 聞かれるのは予想していたから、俺はあらかじめ考えていた内容で答えた。


「もう飼い主は決まっているから、募集はしないですよ」

「そうなんだ~予約もらってるのね」


 飼い主=俺だけど。

 まあ嘘はついてないよね?


「相手はちゃんとしてる人? 牧場のネズミ捕りにするとか、放し飼いにするような人はダメだよ」


 と言うのは御堂さん。

 彼女は動物関係に詳しいのかな。


「牧場ではないけど、放し飼いはダメなんですね」

「うん。猫ちゃんはね、放し飼いにすると交通事故で死んじゃうし、野良猫から病気をうつされることもあるから」


 話しながら、御堂さんは自分のスマホで検索した「猫の完全室内飼い」の説明を見せてくれた。

 交通事故……異世界に車はあるんだろうか?

 野良猫……うちの庭(無人島)で見たことないなぁ。

 しかしそれを言うわけにもいかず、俺はなるほどと頷くだけだった。

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