オラオラ鳥を仕留めた後、俺は巣の中のタマゴは取らずに帰宅した。
「心配無用じゃ。メスは1羽で子育てした後、次のパートナーを見つけるであろう」
猫神様は言う。
オラオラ鳥はずっと同じパートナーと組むわけではなく、メスが子育てを終えると複数のオスがやってきて争い、勝ったオスがパートナーになるそうだ。
「そっか。でも俺が倒した奴の血筋はあのタマゴが最後になるから、取らずに帰るよ」
巣の中には5個のタマゴがある。
それが全部育つかは分からないけれど、父鳥の遺伝子は受け継がれるだろう。
「うむ。いずれあの中から父親そっくりな勇ましいオスが生まれる筈じゃ」
「父を知らずに育つと思うと申し訳ない気もするけどね」
「気にするでない、よくあることじゃ。ルカの子らも父知らずじゃろう?」
「そういえばそうだね。あのとき、近くに他の猫はいなかったし」
「猫のオスは、メスに子種を植え付けた後は去っていくのじゃ」
「人間だったら絶対ダメな奴だね」
猫の家庭の事情(?)を知って、俺は苦笑した。
そういえば、熊もメス1頭で子育てするんだっけ?
獣にはよくあることなのかもしれない。
◇◆◇◆◇
現実世界、派遣先の休憩室。
猫好きスタッフたちが、今日も新たな仔猫画像に盛り上がっている。
「ねえねえ、この子たちの性別は? 男の子? 女の子?」
「まだ知らないんです。仔猫の性別ってよく分からなくて」
猫飼い初心者には、仔猫の性別なんて見分けられない。
名前を付けるときも、特に性別は考えてなかった。
「私が見分けてあげるから、仔猫のお尻を撮ってきて」
「お尻ですか……」
御堂さん、職場のマドンナが尻を撮れとか言うと違和感しかありませんよ?
「そうだね。沙也さん詳しいから、お尻見てもらうといいよ」
「お尻の穴の辺りを撮ってね」
えーと女性スタッフのみなさん?
【仔猫】という主語が抜けると誤解を生みそうな会話になってませんか?
その後帰宅した俺は、仔猫たちの尻の撮影を始めた。
異世界育ち生後19日目、仔猫たちは足をプルプルさせながら立ち上がり、おぼつかない足取りで少し歩けるくらいになっている。
「ちぃ~」
「ちぃ~」
「ちぃ~」
「ちぃ~」
箱から出された仔猫たちが、小さな声で抗議するように鳴く。
俺は仔猫の尻尾をつまみ上げて、スマホでお尻を撮影した。
「み?」
ルカがキョトンとした顔でこちらを見て鳴く。
なにしてるの? と聞きたいんだろう。
ルカはゴロゴロ言いながら尻尾を立てて俺の周りを歩き、頭をすり寄せてくる。
お尻がよく見えるが、ルカの性別確認は今更だ。
「ふむ、仔猫の性別確認かの?」
「うん。職場に詳しい人がいて、見てあげるよって」
「性別など我に聞けばすぐ教えてやるぞい」
巨大フサフサ茶トラ神様もやってきた。
そういえば、性別なんて神様なら余裕で分かるのか。
「職場で性別判定を楽しみにしてる人たちがいるから、今は内緒にしといて」
「ほっほっほ。仔猫の性別で盛り上がるとは、そなたの職場は平和じゃのう」
神様には仔猫たちの性別は明かさないようにお願いして、俺は4匹分のお尻画像をスマホのフォルダに保存した。
現実世界での翌日。
仕事を終えた閉店後、休憩室に俺と御堂さんと猫好きスタッフたちが揃う。
「ここが線で繋がってるみたいなのがメス、離れているのがオス。まだ小さいからちょっと分かりづらいかもしれないけど、ステラとルクスがメス、ソルとルナがオスっぽいね」
「あ、やっぱりソルは男の子なんだ。茶トラだから男子かな~って思ってたの」
仔猫の性別判定で盛り上がる平和な職場がここにある。
茶トラはオスが多い説は俺も聞いたことがあった。
そういや未だに猫神様の性別を知らないけど、オスってことでいいかな?