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第19話:仔猫たちの性別

 オラオラ鳥を仕留めた後、俺は巣の中のタマゴは取らずに帰宅した。


「心配無用じゃ。メスは1羽で子育てした後、次のパートナーを見つけるであろう」


 猫神様は言う。

 オラオラ鳥はずっと同じパートナーと組むわけではなく、メスが子育てを終えると複数のオスがやってきて争い、勝ったオスがパートナーになるそうだ。


「そっか。でも俺が倒した奴の血筋はあのタマゴが最後になるから、取らずに帰るよ」


 巣の中には5個のタマゴがある。

 それが全部育つかは分からないけれど、父鳥の遺伝子は受け継がれるだろう。


「うむ。いずれあの中から父親そっくりな勇ましいオスが生まれる筈じゃ」

「父を知らずに育つと思うと申し訳ない気もするけどね」

「気にするでない、よくあることじゃ。ルカの子らも父知らずじゃろう?」

「そういえばそうだね。あのとき、近くに他の猫はいなかったし」

「猫のオスは、メスに子種を植え付けた後は去っていくのじゃ」

「人間だったら絶対ダメな奴だね」


 猫の家庭の事情(?)を知って、俺は苦笑した。

 そういえば、熊もメス1頭で子育てするんだっけ?

 獣にはよくあることなのかもしれない。



 ◇◆◇◆◇



 現実世界、派遣先の休憩室。

 猫好きスタッフたちが、今日も新たな仔猫画像に盛り上がっている。


「ねえねえ、この子たちの性別は? 男の子? 女の子?」

「まだ知らないんです。仔猫の性別ってよく分からなくて」


 猫飼い初心者には、仔猫の性別なんて見分けられない。

 名前を付けるときも、特に性別は考えてなかった。


「私が見分けてあげるから、仔猫のお尻を撮ってきて」

「お尻ですか……」


 御堂さん、職場のマドンナが尻を撮れとか言うと違和感しかありませんよ?


「そうだね。沙也さん詳しいから、お尻見てもらうといいよ」

「お尻の穴の辺りを撮ってね」


 えーと女性スタッフのみなさん?

【仔猫】という主語が抜けると誤解を生みそうな会話になってませんか?



 その後帰宅した俺は、仔猫たちの尻の撮影を始めた。

 異世界育ち生後19日目、仔猫たちは足をプルプルさせながら立ち上がり、おぼつかない足取りで少し歩けるくらいになっている。


「ちぃ~」

「ちぃ~」

「ちぃ~」

「ちぃ~」


 箱から出された仔猫たちが、小さな声で抗議するように鳴く。

 俺は仔猫の尻尾をつまみ上げて、スマホでお尻を撮影した。


「み?」


 ルカがキョトンとした顔でこちらを見て鳴く。

 なにしてるの? と聞きたいんだろう。

 ルカはゴロゴロ言いながら尻尾を立てて俺の周りを歩き、頭をすり寄せてくる。

 お尻がよく見えるが、ルカの性別確認は今更だ。


「ふむ、仔猫の性別確認かの?」

「うん。職場に詳しい人がいて、見てあげるよって」

「性別など我に聞けばすぐ教えてやるぞい」


 巨大フサフサ茶トラ神様もやってきた。

 そういえば、性別なんて神様なら余裕で分かるのか。


「職場で性別判定を楽しみにしてる人たちがいるから、今は内緒にしといて」

「ほっほっほ。仔猫の性別で盛り上がるとは、そなたの職場は平和じゃのう」


 神様には仔猫たちの性別は明かさないようにお願いして、俺は4匹分のお尻画像をスマホのフォルダに保存した。



 現実世界での翌日。

 仕事を終えた閉店後、休憩室に俺と御堂さんと猫好きスタッフたちが揃う。


「ここが線で繋がってるみたいなのがメス、離れているのがオス。まだ小さいからちょっと分かりづらいかもしれないけど、ステラとルクスがメス、ソルとルナがオスっぽいね」

「あ、やっぱりソルは男の子なんだ。茶トラだから男子かな~って思ってたの」


 仔猫の性別判定で盛り上がる平和な職場がここにある。

 茶トラはオスが多い説は俺も聞いたことがあった。

 そういや未だに猫神様の性別を知らないけど、オスってことでいいかな?



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