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第20話:狩りの効果

 異世界で猫拳ねこけんを習ったり、クリムゾンボアやオラオラ鳥と戦ったり。

 スローライフとは何か違うような生活は、身体を鍛える効果は確実にあったようだ。


 現実世界、派遣先のドラッグストアの新入社員歓迎会。

 大卒の薬剤師さんが入社してきたので、閉店後にみんなで呑みに行くことになった。

 居酒屋で盛り上がり、酔い潰れて寝ちゃう人もいる中で、ケロッとしているのは俺と御堂さん。


「来栖くん、呑んでる? 全然酔ってないみたいだけど」

「呑んでますよ~、ほら、グラスが空になってるでしょ?」


 俺が酔わないのは、世界樹の葉を食べていたから。

 状態異常解除効果を持つそれは、事前に食べておくと24時間ほど状態異常を無効化するんだ。

 なのでアルコールがどれだけ体内に入っても全く影響は無かった。

 お酒はもはや水みたいなもので、トイレで用を足せば成分は全部抜けていく。


「お酒強いのね。一緒に二次会行こうか」

「はい喜んで」


 御堂さんが酒豪なのは、社内ではよく知られている。

 現実世界で残業しようが二次会へ行こうが、異世界の自宅に帰る時間は調整できるので問題無し。

 俺は御堂さんの誘いに乗り、2人で二次会の店に向かった。


 真夜中の繁華街。

 客引きの看板を持った人々が、あちこちで通行人に呼び掛けている。

 俺と御堂さんは、落ち着いた雰囲気のバーに行く予定だった。

 そこは御堂さんお気に入りの店で、1次会を乗り越えた酒豪だけが彼女と共に行ける場所。

 ……まあ、俺はズルしてるので、酒豪とは言えないけど。


 世界樹の葉、万歳!

 憧れの御堂さんと二次会だ~。

 歩きながらニコニコ御機嫌な俺を見て、御堂さんがクスッと笑う。


 楽しい雰囲気は、突然乱された。

 車両通行禁止エリアに、凄い勢いで突っ込んでくるトラック。


「キャー!」

「うわぁっ!」

「なに、なんなの?!」


 トラックは無差別に通行人を跳ね飛ばし、人々の悲鳴が上がる。

 飲酒運転かと思っけど、明らかに人を狙って突っ込んでいるように見えた。


「警察と救急車、呼ばなきゃ!」


 御堂さんが驚きつつもスマホを取り出して電話をかける。

 暴走トラックは何人かを跳ね飛ばした後、こちらへ向かってきた。

 運転席の男が、しっかりとハンドルを握り、ニヤリと笑うのが見える。


「危ない!」

「え?!」


 俺は咄嗟に御堂さんを抱き寄せて跳躍した。

 異世界で鍛えられた身体能力は、女性1人くらい軽々と抱えて跳ぶことができる。

 トラックはそのまま雑居ビルに突っ込み、御堂さんを抱えた俺は隣のビルの前に着地した。


「ヒヒヒッ、皆殺しだぁ」


 イカレた声が聞こえる。

 雑居ビルに突っ込んだトラックから、包丁を持った男が出てきた。


「お前~避けるなよぉ」


 正気には見えない歪んだ笑いを浮かべて、男はこちらへ走ってくる。

 なにこいつ? サイコパスか?

 しかしその走りは、クリムゾンボアやオラオラ鳥に比べたら遅かった。


「そんなもん避けるに決まってるだろ、鈍足!」


 突き出される包丁を俺は余裕で躱して、よろけた男の顔面に連続蹴りを食らわしてやった。

 ネコキックの応用、三連蹴り。

 御堂さんを抱えているし、即死技の動脈斬りを使うわけにはいかないので、蹴りで相手を気絶させる技を使う。

 仰け反ってフッ飛んだ男はアスファルトの路面に後頭部を強打して動かなくなった。

 抱えられたままの御堂さんは、ビックリし過ぎて声も出ないようだ。



 それから間もなく到着したパトカーが男を拘束して連れ去り、ほぼ同時に走ってきた救急車が怪我人を運び出していく。

 犯人逮捕に協力する形になった俺は警察官に連絡先を聞かれ、後ほど連絡しますと言われた。

 事情聴取でもするのかな?

 自宅が携帯の圏外なので留守電にメッセージを入れて下さいと言っておいたよ。


「来栖くん、凄い。何か武道でもやってるの?」

「はい、最近始めたんですけどね」


 二次会どころではなくなった御堂さんをマンションの前まで送った後、俺は異世界の自宅へ転移した。



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