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第24話:御堂さんとデート


 現実世界での翌日午後。

 待ち合わせ時間5分前に、俺は映画館の前で待つ。

 道の向こうから私服姿の御堂さんが歩いてくるのが見えてきた。


 薄い灰色のマーメイドスカートに、水色のアシメオフショル。

 ツヤツヤサラサラの長い黒髪を靡かせている御堂さんは、歩く姿も姿勢が良くて綺麗だ。


「もしかして待たせちゃった?」

「安心して下さい、今来たばかりです」


 上品に微笑みながら聞く御堂さん。

 職場では見かけないオシャレ姿にトキメキつつ、俺はシャキッとして答えた。


 今来たばかりですなんて月並みな台詞だけど、嘘ではない。

 但し、異空間トンネルの中から御堂さんが来る時刻を見て、それに合わせて来たけどね。


「助けてもらったお礼だから、今日は奢らせてね」

「そんな、大したことはしてないですよ」

「いいのいいの。それにもう買ってあるし」


 御堂さんは茶色のショルダーバッグからスマホを取り出してニッコリ笑う。

 画面をタップして見せてくれたのは、ネット購入したチケットの番号だった。

 昨日話してもう買ってるなんて、行動早いなぁ。


「じゃ、入りましょう」

「はい」


 御堂さんが映画館の出入り口に向かうので、俺はそれに続いた。

 映画館の中は複数の部屋に分かれていて、話題の映画を上映する部屋には行列ができていた。

 俺と御堂さんが観るのは話題作ではないので、すんなり中に入れて席もガラ空きだ。

 売店で買った紅茶とクッキーを折り畳みテーブルに置いて、スクリーンに流される様々なCMを眺めつつノンビリ待つ。


「あ、店員さん蜂蜜入れ忘れてる……」


 紅茶の紙コップに口を付けた後、御堂さんが言う。

 俺も自分のを飲んでみると、確かに甘みがなかった。


「ここの紅茶、蜂蜜がウリなのに。貰ってくるわ」

「あ、待って下さい。蜂蜜なら持ってますよ」

「え?」


 立ち上がりかける御堂さんを引き留めて、俺はウエストポーチに隠しながら異空間倉庫を小さく開き、保管していた世界樹の花蜜入り小瓶を取り出す。

 蜜蜂の蜜じゃないから蜂蜜とは言えないけど。

 これなら蜂蜜代わりに充分使えるだろう。


「はいこれ、紅茶に入れてみて下さい」

「あ、ありがとう。来栖くんてば、どうして蜂蜜なんて持ち歩いているの?」

「ここへ来る前に知り合いがくれたんですよ。ヨーグルト用に」

「あ、そういえばヨーグルトを作るって言ってたわね」


 実際は知人ではなく妖精たちから貰ったんだけど。

 さすがにそれを言うと頭おかしい人と思われそうなので、知人から貰ったことにしておこう。


「いい香り……もしかして、薔薇の蜜?」

「知人も養蜂家から貰ったらしいので分からないですが、そうかもしれないですね」

「これ凄く美味しい……紅茶が上品なローズティーみたいになったわ」

「気に入ってもらえて良かったです」


 美味しさ倍増した紅茶を楽しみつつスクリーンを眺めていたら、CMが終わり映画本編が始まった。


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