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第26話:優しい人


 上映が終わり、照明がついて室内が明るくなった頃。

 どういうわけか、俺は御堂さんに抱き締められていた。


「うん、やっぱり来栖くんは良い人ね」


 耳元で、囁かれた。

 俺は映画見て泣いちゃったとか、憧れの女性に抱き締められているとか、いろいろあってフリーズしている。

 御堂さんは俺を抱き締めつつ、片手で傍らに置いたレジ袋から、猫の刺繍いりハンドタオルを取り出して、俺の涙を拭いてくれた。

 こんなとこ絶対バイト先の人たちには見せられないな。


「す、すいません。買ったばっかりなのに俺に使わせちゃって……」

「いいのいいの、これ来栖くんにあげる」


 ハンドタオルを汚したことを謝ったら、ニッコリ微笑まれて手渡された。

 幸いというかなんというか、室内には人がまばらだった上に他にも泣いてる人がいるみたいで、ちょっとホッとしたり。

 しかし、男女で来てて男が泣いて慰められる図っていうのはかなり恥ずかしい。


「こんなに優しい来栖くんに飼ってもらえて、ルカちゃんたちは幸せね」

「そ、そうですか?」


 御堂さんの声は、優しさの他になにか喜んでいるような感じがする。

 俺はそんな褒められるようなことはしてないけどなぁ。


「世の中にはペットを棄てる人がいるわ。でも、この映画を観て、棄てられた子に共感する人なら、ずっと大切に飼ってくれると思うから」

「うん、俺はルカを棄てたりしません」


 それだけは誓える。

 猫神様のおかげではあるけれど、俺はルカと暮らしていけるから。


「ありがとう」


 そう言って微笑むと、御堂さんは俺の頬に軽くキスをした。

 外国人がよくやる挨拶みたいなやつ。

 俺は日本生まれの日本育ち、生粋の日本人なので再びフリーズしてしまったよ。


 御堂さんがお礼を言うのは、多分ルカの言葉を代弁したんだろう。

 動物好きの人たちは、自分が関わったものでなくても代わりにお礼を言ったりするからね。



 ◇◆◇◆◇



 その後、映画館を出た俺と御堂さんは、近くにあるレストランでディナーを楽しんだ。

 イタリアン系の店で、パスタがモッチリした食感でソースも美味い。

 俺は茄子ミートソースにしたんだけど、ソースの上にピザチーズが散らしてあり、とろけて伸びるチーズとソースの相性が素晴らしい。

 御堂さんはカリカリベーコン入りカルボナーラで、そちらにもチーズが散らされている。


「このチーズ、味がまろやかでパスタソースに合いますね~」

「これ、自家製チーズなの。この店でしか食べられないのよ」


 この店は御堂さんお気に入りの1つらしい。

 デザートにオススメというレモンソースのレアチーズケーキも美味かった。


 自家製チーズ、いいね。

 シェーブルのミルクで俺も作ってみようかな?

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