今回が2度目の御堂さん宅訪問。
玄関チャイムを鳴らそうとしたら、ムスタの声が聞こえてくる。
「クンクンクン、キュウ~ン」
なんか、前回と違うような?
その後すぐに、カシャンと鍵が開く音が聞こえた。
「来栖くんでしょ? リモートで鍵は開けたから入ってきて」
「はい」
家主に入っていいと言われたのでドアを開ける。
フローリングの床に、小さな黒い立ち耳フサフサ犬がチョコンとオスワリして尻尾を振っていた。
玄関で靴を脱いで上がろうとすると、ムスタが近くのスリッパスタンドからスリッパを咥えてきて目の前に置く。
「ありがとうムスタ。凄いな、お利口さんだね」
「クゥン」
ムスタを褒めたら、嬉しそうに尻尾を振った後、先に立って歩き出す。
これって案内してくれてるんだろうか?
居間に向かうムスタについていくと、お茶を淹れている御堂さんがいた。
キッチンの方から、お菓子が焼ける甘い香りが漂っている。
訪問連絡してから着くまで7~8分、急いで準備したのなら申し訳ないことしたな。
次からはもう少し時間が経ってから着くようにしよう。
「チャイムを鳴らしてないのに、来たのがよく分かりますね」
「ムスタの反応で、大体誰が来たか分かるのよ」
俺が話しかけると、御堂さんはニッコリ微笑んで言う。
事前に連絡はしていたけど、チャイムを鳴らす前に来たのが分かるって凄いな。
御堂さんはティーカップをテーブルに置いて、俺にソファに座るよう勧めてくれた。
俺を案内してくれたムスタは、ソファ脇の専用のクッションに乗っかって悠々と寛ぎ始める。
「どうぞ。せっかくだからお茶を飲んでいってね」
「ありがとうございます。あ、これ差し入れです」
「これなぁに? 果物のシロップ漬けかしら」
俺は御堂さんにお礼を言いつつソファに座り、ペーパーバッグから取り出すふりをして異空間倉庫から瓶詰を出してテーブルに置く。
ロゼワイン色の果実の瓶詰に、御堂さんが興味津々だ。
「貧血に効く果物の蜂蜜漬けですよ。1日2切れずつ食べて下さいね」
「来栖くんが作ってくれたの? ありがとう」
レム鹿の実はスモモくらいの大きさで、1口で食べるには少し大きいから半分に切って瓶に詰めた。
猫神様が1日1個ずつと言っていたから、2切れ食べれば1個分になる。
御堂さんが瓶の蓋を開けると、甘い蜜の香りと爽やかな柑橘系の香りが漂う。
「いい匂い~。早速食べてみてもいい?」
「どうぞ~」
俺が答えると、御堂さんはキッチンに向かう。
御堂さんは、トレイに空の小皿とフォーク、カップケーキを乗せて戻ってきた。
「来栖くんはこれを食べてね。冷凍保存した物だけど、トースターで温めたから焼き立てっぽくなってるわ」
「いただきます~…うまっ!」
そのカップケーキは、バナナとクルミがたっぷり入っていて、甘さも程よくて美味しかった。
紙製のカップを剥がして頬張ると、バナナとバターの風味が口の中に広がる。
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一方の御堂さんは、瓶から取り出したレム鹿の実をフォークに刺して、一口食べると幸せそうに微笑んでいる。
美味しい物を食べるときの笑顔だ。
お口に合ったみたいで良かった。
「この果物、美味しくて薬効が凄いね。食べたら貧血の頭痛がスーッと引いたわ」
「効果あるみたいで良かったです」
差し入れは気に入ってもらえたようだ。
御堂さんの貧血が改善されるなら、食べ切る頃にまた作ってプレゼントしよう。