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第42話:バナナの追熟


 異世界、神の島。

 俺は食材を求めて森へ行ってみた。

 気候が温暖なこの島では、一年中花が咲き、果実が実っている。

 自然豊かな森の中には、緑の木々の香りと、花や果実の甘い香りが漂っていた。

 今日の散策の目標は、バナナに似た果実。

 スーパーの生鮮コーナーで見かけるものよりも短く、ずんぐりした形のバナナだ。

 俺のお気に入り果実の1つで、もっちりした食感と濃厚な甘さ、ほのかな酸味が良い。

 現実世界の「島バナナ」に似た果実で、青いうちに採集しないと、鳥たちに全部食べられて手に入らない。

 猫神様と並んで森の中をしばらく歩いていると、良さそうなものを見つけた。


「ふむ、これはそろそろ良さそうじゃ」

「じゃあ、1房もらうよ」


 猫神様が、茶トラのモフモフした手(前足)でバナナに似た果実を指し示す。

 俺は教えられた大きな房から、連なって付いている果実の一部を軸ごと切り取った。


 青い果実は、あんまり早く採りすぎてもよくない。

 結実し始めてまだ角ばってるうちは取らずに待つ。

 角がとれて、ふっくら丸みが出てきたら採り頃だ。

 俺はまだそのタイミングが難しいので、猫神様にアドバイスを受けていた。


 採ってきたバナナは、室内に紐で吊るして追熟させる。

 いいタイミングで採集すれば、翌日には一斉に黄色くなってくるけど、まだ食べるには早い。

 スーパーに売ってるバナナみたいに真っ黄色になった後、もう2~3日ほど待つ。

 真っ黄色い皮にそばかすみたいな点々で出たり、少し黒ずんだりしたら食べ頃だ。


(そうだ、御堂さんにもお裾分けしよう)


 収穫前のバナナは、スーパーで売ってるバナナが螺旋状に集合したみたいに本数が多い。

 俺は自分が食べる分の他に、御堂さん用に1房切り取って持ち帰った。

 御堂さんはバナナのカップケーキをストックしていたから、バナナ好きだと思う。

 珍しいバナナをあげたら喜ぶかな?

 俺は自宅に帰った後、1房はキッチンの壁際に吊るして、御堂さんにあげる1房を紐でブラ下げて、現実世界へ空間移動した。



 現実世界、御堂さん宅近くの公園。

 俺は日没後の闇に紛れて、公園の木陰に出た。

 現実世界の今日は俺が休みで御堂さんは早番だからそろそろ帰る筈。

 俺は公演のベンチに座り、メッセージアプリを開いた。


『バナナをたくさん手に入れたのでお裾分けします~何時頃が都合いいですか?』

『いいタイミングね。もう着がえ終わったから、すぐ来てもいいわよ』

『30分くらいで着きま~す』


 連絡したら、すぐ既読がついて返事がきた。

 御堂さんは仕事から帰って着がえも済んだらしい。

 俺は前回の経験から、30分ほど時間を開けて行くことにした。

 マンションの御堂さん宅の前まで行くと、前回と同じくチャイム不要のムスタお出迎えだ。

 扉の前に立ったら、クンクンキュンキュン鼻を鳴らすのが聞こえてくる。


「来栖くんでしょ? 鍵は開けたから入って」

「は~い」


 御堂さんの声が、玄関ドアに付いたスピーカーから聞こえる。

 俺が扉を開けて中に入ると、ムスタがオスワリして待っていた。


「ムスタ~またお邪魔するよ~」


 玄関でスリッパを出してくれたムスタに話しかけると、口を開けて目を細めて笑うような顔をしながら、無言でフサフサ尻尾を左右に揺らして応えてくれた。

 その微笑みで、歓迎してくれるんだな~って分かる。

 賢いムスタは、アイコンタクトで意思表示ができるらしい。


「どうぞ座って。せっかく来たんだから晩酌に付き合ってね」

「ありがとうございます。これ、お裾分けです」

「あら、島バナナね。沖縄の人からもらったの?」

「はい」

「私も貰ったことがあるわ。熟すまで待ち遠しいけど、美味しいのよね~島バナナ」


 御堂さんはリビングのテーブルにワインとオードブルを用意して待っていた。

 俺は紐でブラ下げて持っていたバナナを御堂さんに手渡した。

 見た目から、御堂さんは沖縄の島バナナだと思ったらしい。

 まあ、まさか異世界のバナナだとは思わないよね。

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