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第44話:仔猫の猫拳


 異世界の自宅。

 帰宅して猫たちの様子を見にいったら、居間に続く扉の向こうから、なんか声がする。


「キュッ!」

「キュッ!」

「キュッ!」

「キュウ~」


 何だろう?

 仔猫たちの声だけど、何か気合が入っているような?


「ただいま~」

「んみっ、みっ」


 扉を開けて居間に入ると、ソファでのんびり寛ぐルカが振り向いた。

 部屋を見回せば、猫神様と仔猫たちが集まって、何故か後足だけで立っている。

 入ってきた俺に気付くと、4匹は一斉に駆け寄ってピョーンと跳ぶ。

 GパンやTシャツに爪をかけて登ってくると、左右の肩にソルとルクス、頭にステラがチョコンと乗った。

 ルナは後方から上がってきて、おんぶみたいに背中に貼り付いたかと思えば、うなじ辺りまで来て後ろ髪をかき分けながら顔を突っ込んで甘噛みしてくる。

 チクチクするし、くすぐったいけど、可愛いから人間キャットタワーに徹するのが俺だ。


「おかえり聖夜、貢物は喜んでもらえたかの?」

「ただいま~……って、貢物じゃなくて、ただのお裾分けだよ」

「そうかそうか、まぁ頑張るがよい」


 猫神様は目を細めてニコニコして言う。

 俺が御堂さんにバナナをあげたことを、貢物と思われているらしい。

 日頃お世話になっているから、お礼のつもりなんだけどなぁ。


「って、それはおいといて。チビたちは二本足で立って何を?」

「拳法のレッスンじゃよ。体力が有り余っておるからな」


 猫神様は、仔猫たちに猫拳を教えていたらしい。

 俺も習っているけれど、人間の身体に合わせてアレンジしてもらったものだから、仔猫たちとは動きに違いがあった。


「チビたちは強くなれそう?」

「そうじゃな、鍛えればオラオラ鳥くらいには勝てるようになるじゃろう」


 俺は仔猫たちがオラオラ鳥を狩る様子を想像してみた。

 ダチョウサイズの鶏を、両手にスッポリ納まる仔猫が狩る?

 とっさに浮かんだのは、ゾウに襲い掛かるライオンの姿だった。

 ライオンがゾウを狩るのは親から引き離された仔ゾウか、病気や高齢で動きが鈍ったゾウくらいだろうけれど。

 仔猫たちは元気なオラオラ鳥を狩れるのだろうか?


「まぁ見ておれ。ルナなどはなかなか筋が良いぞ」


 そう言うと、猫神様はンニャッニャッと鳴いて仔猫たちを呼び寄せる。

 俺の肩や頭やうなじから仔猫たちが跳び離れて、猫神様の前へ走っていく。

 きっちり一列に整列すると、仔猫たちはまた二本足で立ち、拳法の構えをとった。


「ニャ!」


 猫神様は多分「始め!」と言ったんだろう。

 その声を合図に、仔猫たちは小さな手足を振り、時には身体を反転させて、武道家っぽい動きを始めた。


「キュッ!」

「キュッ!」

「キュッ!」

「キュウ~」


 それはカッコイイというよりは、可愛いしかない動作だ。

 顔はキリッとしているけれど、ほっこりしてしまう。

 俺はソファに座り、ルカと並んで仔猫たちの修行を見学した。

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