現実世界、派遣先のドラッグストア。
午後の納品受け取り作業中、【御堂さんを愛でる会】メンバーがやけに張り切っている。
「こんにちは~、これはどこに置きましょうか?」
「あ、俺が運びます!」
今までは業者に倉庫まで運んでもらっていたのに、ササッと駆け付けて受け取り、倉庫へ向かう鈴木。
倉庫前の棚に品出し中の田中が、サッと退いて扉を開けてあげている。
レジで接客中の佐藤は、ありがとうございました~とお客を見送ったかと思えば、チラッと倉庫の方に視線を向けたりする。
君たち、何をソワソワしているんだ?
彼等はしきりに倉庫を気にしている。
何かと用事を作っては、倉庫の中へ入っていく。
倉庫の中に、何かあるのか?
品出しをしつつ、俺は怪訝に思っていた。
「あれ露骨過ぎない?」
「期待しすぎ~」
ブレイクタイムにコーヒーを飲みに休憩室へ行ったら、パートのお姉さん2人が笑いながらそんな話をしている。
お姉さんたちは室内に入ってきた俺に気付くと、意味深な笑みを向けてきた。
「来栖くん、気を付けて」
「三馬鹿に出番をとられないようにね」
「え?」
なんのことだろう?
俺がキョトンとしていると、お姉さんたちは小声になって言う。
「最近暑くなってきたじゃない? 御堂さん、そろそろ貧血が酷くなる時期だから」
「倒れたりしないか、来栖くんも気にしてあげて」
「あ……そういうことですか」
うん、彼等の狙いは理解した。
貧血で御堂さんが倒れたときに備えているのか。
商品が入った重い箱を台車も使わずに運ぶのは、筋力を誇示するためだろうか?
でも多分、御堂さんが倒れることは無いと思う。
御堂さんに神の島で採れた果実を差し入れるようになって以来、彼女の美容と健康は人に自慢できるレベルになっているからね。
「御堂さん大丈夫ですか?」
「倉庫の中は暑くないですか?」
ブレイクタイム後、休憩室を出て倉庫作業に戻ろうと廊下に出たら、向こうから御堂さんと鈴木&田中が歩いてくる。
その様子が、姫君と護衛たちみたいに見えるのは気のせいだろうか?
「大丈夫よ、最近は体調がいいの」
姫君もとい御堂さんが上品な微笑みを浮かべて答える。
彼女は廊下で俺とすれ違う際に、こちらを見てニッコリ笑った。
「ね? 来栖くん」
「は、はい」
意味深な笑みを向けてくる御堂さんに、ちょっと焦りつつ答える俺。
御堂さんの両サイドにいる鈴木と田中から、嫉妬のオーラが滲み出ているぞ。
プライベートはほとんど語らない御堂さんだから、仕事仲間たちが事情を知ることはない。
(……御堂さんの自宅を訪問した上に晩酌に付き合ったなんて、絶対言えない……)
軽く冷や汗をかきつつ、俺は心の中で呟いた。