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第45話:気になる倉庫


 現実世界、派遣先のドラッグストア。

 午後の納品受け取り作業中、【御堂さんを愛でる会】メンバーがやけに張り切っている。


「こんにちは~、これはどこに置きましょうか?」

「あ、俺が運びます!」


 今までは業者に倉庫まで運んでもらっていたのに、ササッと駆け付けて受け取り、倉庫へ向かう鈴木。

 倉庫前の棚に品出し中の田中が、サッと退いて扉を開けてあげている。

 レジで接客中の佐藤は、ありがとうございました~とお客を見送ったかと思えば、チラッと倉庫の方に視線を向けたりする。


 君たち、何をソワソワしているんだ?


 彼等はしきりに倉庫を気にしている。

 何かと用事を作っては、倉庫の中へ入っていく。

 倉庫の中に、何かあるのか?

 品出しをしつつ、俺は怪訝に思っていた。


「あれ露骨過ぎない?」

「期待しすぎ~」


 ブレイクタイムにコーヒーを飲みに休憩室へ行ったら、パートのお姉さん2人が笑いながらそんな話をしている。

 お姉さんたちは室内に入ってきた俺に気付くと、意味深な笑みを向けてきた。


「来栖くん、気を付けて」

「三馬鹿に出番をとられないようにね」

「え?」


 なんのことだろう?

 俺がキョトンとしていると、お姉さんたちは小声になって言う。


「最近暑くなってきたじゃない? 御堂さん、そろそろ貧血が酷くなる時期だから」

「倒れたりしないか、来栖くんも気にしてあげて」

「あ……そういうことですか」


 うん、彼等の狙いは理解した。

 貧血で御堂さんが倒れたときに備えているのか。

 商品が入った重い箱を台車も使わずに運ぶのは、筋力を誇示するためだろうか?


 でも多分、御堂さんが倒れることは無いと思う。

 御堂さんに神の島で採れた果実を差し入れるようになって以来、彼女の美容と健康は人に自慢できるレベルになっているからね。


「御堂さん大丈夫ですか?」

「倉庫の中は暑くないですか?」


 ブレイクタイム後、休憩室を出て倉庫作業に戻ろうと廊下に出たら、向こうから御堂さんと鈴木&田中が歩いてくる。

 その様子が、姫君と護衛たちみたいに見えるのは気のせいだろうか?


「大丈夫よ、最近は体調がいいの」


 姫君もとい御堂さんが上品な微笑みを浮かべて答える。

 彼女は廊下で俺とすれ違う際に、こちらを見てニッコリ笑った。


「ね? 来栖くん」

「は、はい」


 意味深な笑みを向けてくる御堂さんに、ちょっと焦りつつ答える俺。

 御堂さんの両サイドにいる鈴木と田中から、嫉妬のオーラが滲み出ているぞ。

 プライベートはほとんど語らない御堂さんだから、仕事仲間たちが事情を知ることはない。


(……御堂さんの自宅を訪問した上に晩酌に付き合ったなんて、絶対言えない……)


 軽く冷や汗をかきつつ、俺は心の中で呟いた。

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