異世界、神の島近海。
俺は巨大フサフサ茶トラ猫の背に乗って、青空を背にしながら瑠璃色の海に浮かぶ緑の島々を見下ろしていた。
この世界には、普段生活している島とは別に、猫神様が作った島や大陸が複数ある。
陸のほとんどはこの世界の民に与えられたけれど、小さな島の幾つかは神の管理下におかれた無人島として存在している。
その中でも、【太陽が昇り、沈む場所(アケト・マヌ)】と呼ばれる四つの島は特別だった。
「聖夜よ、今日はイリの島に来客があるゆえ、準備をするぞい」
自宅を出る前に、猫神様は言った。
「イリ」というのは、この世界の言語で「西」を意味する。
イリの島は、四葉のクローバーみたいな形で海に浮かぶ諸島の1つだ。
前に一度上空から見学させてもらったことがある、とても美しい島々。
沖縄の海のような明るい青色の中に、白い砂で縁取りされた緑のハート型の島が4つ、十字型に並んでいる風景は、美しさと共に神秘的なオーラを放っていた。
ちなみに「東」は「アガ」、「南」は「パイ」、「北」は「ニシ」という。
「来客? この世界の人が来るの?」
俺はまだこの世界の住民に会ったことがないから、ちょっとワクワクしつつ話を聞く。
しかしその内容は、俺の想定外なことだった。
「うむ。聖夜にはイリの島を護る神となってもらおうかの」
「えぇっ?!」
猫神様は、綺麗な宝石のような緑の双眸を細めて微笑む。
俺はトンデモナイ話に驚くしかなかった。
初めて会う人々の前で神を演じる?!
黒髪黒目でTシャツとGパン姿の神様とか、どうよ?
「俺、全然神様っぽくないけど?」
「みっ、みみっ?」
「心配せずとも、神に見える姿にしてやるぞい」
ビックリして落とした木製皿から散らばるカリカリに、仔猫たちが群がる。
ルカは心配そうに俺を見上げて鳴いた。
猫神様はニコニコしながら言う。
「とはいえ、ぶっつけ本番は落ち着かぬじゃろう。ちょっと練習に行くかの」
「練習?」
「まずはイリの島へ向かうぞい」
俺の困惑に構わず、猫神様は俺のTシャツの後ろをパクッと咥えて、ポイッと自分の背中に乗せる。
そのまま問答無用で空間移動して、出た場所がアケト・マヌ上空だ。
「時間の流れは調整できるゆえ、充分練習させてやるぞい」
そう言うと、猫神様はスーッと下降して、4つの島の西側の1つに上陸した。
その島の中央は木々が無く白砂が円形に広がっていて、白い石の建物がある。
上空から見るとクローバーの葉の真ん中にある白点みたいな場所が、各島の祠がある位置だ。
「では、始めようかの」
こうして、猫神様による【神様講習会(?)】が始まった。