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第47話:4つの島の神々


 猫神様による神様講習会は、最初から驚きしかなかった。


「まずは、着替えから済ませるかの」


 って言われたら、普通は服を着替えると思うよね?

 でも、猫神様が言う【着替え】は、思ってたのと違った。


 無属性魔法:肉体変化メタモルフォーゼ


 猫神様が、桜色の肉球がついた片手(前足)で、ポンッと軽く俺の脳天を叩く。

 頭から身体まで、少し痺れるような感覚と共に、猫神様の力が巡る。

 その力は、俺の身体に変化をもたらした。


 全身を、フサフサした毛皮が覆っていく。

 衣服は見えなくなり、代わりに視界に入るのは銀色の毛並み。

 手足の形がなんか違う?

 俺は言葉も無く驚きつつ、片手の掌に目を向ける。

 手指は短く丸っこいが、指の根元に力を入れると、ニュッと出てくるのは真珠色の鋭い爪。

 手の甲は毛皮に覆われ、掌には桜色のプニプニしたものがある。


 肉球?!

 っていうかこれ、どう見ても猫の手なんだが……


「どうじゃ? 少し動いてみるがよい」

「……俺、猫になってる……?」

「うむ」


 猫神様が、ニッコリ笑う。

 目線の高さは変身前と変わらなかったが、歩こうとしたらよろけてしまった。

 二足歩行が、人間の姿の時よりも難しい。


「イリの神らしく、銀猫にしておいたぞい」

「この世界の神様って、もしかしてみんな猫の姿?」


 緑の葉が茂るの森の中、座って目を細めて笑うのは巨大フサフサ茶トラ猫。

 その前にいる、一回り小さいフサフサ銀猫が俺だ。


「我が創った神々は、みんな猫の姿をしておるよ」

「……神々を……創った?!」


 猫神様、いつも暇そうに居間のソファでゴロゴロしてるけど、実は偉い神様だった?!

 色々驚いてばかりの俺に、猫神様はモフモフの片手で祠を差して言う。


「あちらで見せたいものがある。ついてまいれ」


 四足歩行でフサフサの尻尾を揺らして歩く巨大長毛茶トラの後を、同じく四足歩行でフサフサ銀猫になった俺が続く。

 猫の姿だからか、二足歩行よりも四足歩行の方が歩きやすい。

 白い石造りの祠の奥には、澄んだ水で満たされた水盤があった。


「これは【過去見の水鏡】という物でな、過去の映像を映すことができるのじゃ」


 猫神様は、水盤の側まで歩いていくと、片手(前足)の肉球で水面にチョンと軽く触れる。

 波紋が広がり、過去の映像と思われる光景が水面に映し出された。



 それは、この世界の民にとっては遥かな昔で、猫神様(創造神)にとってはほんの少し前のこと。

 アケト・マヌと呼ばれる諸島、十文字に並ぶ4つのハート型の島々には、それぞれ違う姿の猫神がいた。

 水面にはまるでスライドショーのように、4つの島々の祠とそこに住まう神が映し出される。


 東島にいるのはアガの神。

 アガの神は太陽の神、金色の長毛で、瞳は朝焼けの太陽の赤金色。

 西島にいるのはイリの神。

 イリの神は月と星の神、銀色の長毛で、瞳は夜更けの月の銀灰色。

 南島にいるのはパイの神。

 パイの神は命の始まりの神、純白の短毛で、瞳は海の青色。

 北島にいるのはニシの神。

 ニシの神は命の終わりの神、漆黒の短毛で、瞳は森の緑色。


「そなた達に役目を与える。それぞれ最善を尽くすのじゃ」

「はい、ユガフ様」


 水面の映像がスライドショーから音声つきの動画に変わり、巨大フサフサ茶トラ猫の前に並んでオスワリする4匹の猫たちが映る。

 四柱の神々は、ユガフ様と呼ばれる創造神から役目を与えられた。

 この世界の民たちは、神々に護られながら生活している。

 生まれるときにパイの神が加護を授け、日々の暮らしをアガの神とイリの神が見守り、死ぬとニシの神が海の向こうの楽園へと運ぶ。


「そなた達が生まれ変わるときは、我が役目を代行してやろう」


 ユガフ様が神々に言う。

 四柱の神々は、生き物たちに比べるとかなり長生きだが、輪廻転生をするらしい。

 魂の抜けた神の身体は、それぞれの島に吸収されて木々を育む養分となる。

 神々は転生後しばらくは神の力も前世の記憶も無く、普通の猫として生活し、成猫になると覚醒して、それぞれの島に戻ってくるという。

 彼等が不在の期間は、ユガフ様が役目を代行するそうだ。

 時を操るユガフ様は不老不死で、転生することはない。


「イリの神は転生に不具合が起きたようでな。まだ戻ってきておらぬのじゃよ」

「じゃあ、今はユガフ様が役目を代行中?」

「そういうことじゃ」


 ユガフ様はそう言うと、再び肉球で水面に触れる。

 過去の映像が消え、過去見の水鏡は澄んだ水が満ちた水盤に戻った。

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