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第48話:神様代理


「イリの神は転生しておるが、成猫となっても未だ目覚めぬ故、この島に帰っておらぬのじゃ」


【過去見の水鏡】から離れて祠の出口へと歩き出しながら、ユガフ様は言う。

 転生した神々は、普通の猫として生まれ育ち、成猫になると覚醒するらしい。


「役目は我が代行しておるから問題は無いのじゃが、民たちは不安になってきておるようでな」

「それで安心させるために、俺をイリの神に仕立てて、帰ってきたと思わせるってこと?」

「そういうことじゃ」


 異世界の神々が住まうアケト・マヌ。

 俺はイリの神が帰ってくるまで、影武者をすればいいらしい。

 ユガフ様の力で銀猫に変わった俺は、少なくとも見た目はイリの神そっくりだ。


「聖夜が謁見の流れを学ぶ間、この島は時の流れから隔離しておこう。しっかり覚えるのじゃぞ」


 祠から出たユガフ様は、モフモフした茶トラの手(前足)を空に向ける。

 青く澄み渡る空が、瞬時に星々が瞬く夜空に変わった。

 猫の爪のように細い月が、微かな銀の光を放っている。

 プラネタリウムか田舎でしか見られないような数の星々が見える。

 夜空を満たす星々は、俺が知らない星座を構成していた。


「月よ、主の住処を示せ」


 ユガフ様が命じると、細い月から白い祠に向かって銀の光が降りてきて、一筋の光の柱になる。

 祠の周囲を、キラキラした銀色の粒子が舞う。

 幻想的な風景に、俺はしばらく見惚れていた。


 ユガフ様は祠の入口前に歩み出ると、祠に背を向けて座る。

 白い燐光が、大きな長毛茶トラ猫を包んだ。


(普段は喋る巨大猫って感じだけど、やっぱり神様なんだなぁ……)


 ユガフ様と向かい合ってオスワリしながら、俺はそんなことを思う。

 光に包まれた創造神は、普段よりもずっと神々しい。

 穏やかな緑色の双眸は、神秘と慈愛を感じさせる。


「新たなるイリの神よ、力を受け取るがよい」


 ユガフ様が片手の先をこちらへ向けると、ピンポン玉くらいの白い光の玉が放たれて、俺の額に吸い込まれた。

 額から全身へと温かい力が広がった後、俺の銀色の毛並みが微かな光を放ち始める。


「これで聖夜はイリの神と同じ力が使える筈じゃ。あとは使い方を覚えることじゃな」

「見た目だけ変えるんじゃなかったのか……」


 目を細めて笑いながら、ユガフ様が言う。

 謁見の作法だけ覚えればいいかと思ってたら、違った。


「せっかくちょうどいい代わりを見つけたのに、謁見だけで終わらせる筈がなかろう?」

「え?!」

「今後はそなたにイリの神の役目を代行してもらおう」

「マジっすか……」


 ユガフ様が、わるい顔(神様なのに)して言う。

 どうやら俺は期間限定神様にされちゃったらしい。

 こうして、創造神ユガフ様によるイリの神の役割講習が始まった。


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