「星の精霊たちよ、出てくるがよい」
「はい、創造主様」
ユガフ様が命じると、白銀の微かな光を放つ小妖精に似た子たちが星空から滲み出るように現れる。
星の数ほどとまでは言わないけれど、彼等を数えるには野鳥の会みたいな技術が必要だと思うよ。
彼等は小さな4つの羽根から燐光を散らしつつ、祠の周辺の空中に浮かんだ。
「今よりこの者がイリの神じゃ。しっかり仕えなさい」
「畏まりました」
ユガフ様が命じると、星の精霊たちが俺の周囲に集まってくる。
数が数なので、やや圧倒されてしまうが、俺は平静を装った。
精霊たちの何体かが慕うようにすり寄ってくるけど、俺が代理で本当はただの人間でも構わないのかな?
「イリの神様、いつもと違う匂いがします」
「その者は異世界に生まれたゆえ、匂いが違うのじゃよ」
「でも、懐かしい匂いもします」
「先代のイリの神の力を授けてやったからじゃな」
精霊たちがすり寄ってきたのは、どうやら俺の匂いを嗅ぎにきたらしい。
俺の額に吸い込まれた白い光の玉は、先代のイリの神の力だったのか。
体内を満たすその力には、優しく癒されるような感覚と、頭が冴えるような不思議な感覚があった。
「では星の精霊たちよ、イリの神に報告をしてみなさい。今は時の流れから切り離されておる故、今ある最新のことで構わぬ」
「「「はい」」」
ユガフ様の言葉に、精霊たちの大合唱の声が応える。
燐光を放つ小さな精霊たちが、その光を強めていく。
精霊たちは、まるで夜空の星の等級のように、放つ光の強さが違った。
「イリの神様、どうぞ気になる光をお選び下さい」
「星は全ての民を見ております」
「イリの神よ、今は練習じゃ。直感で選んで構わぬぞい」
精霊たちとユガフ様が言う。
俺はさっき過去見の水鏡で見たイリの神や、この世界で暮らす人々を思い出しながら考えた。
イリの神は月と星の神、つまり夜を司る神様だ。
この世界の人々は猫耳と尻尾をもつ所謂獣人で、夜行性であり、夜の方が全力を出せる。
イリの神は夜になると祠に篭り、精霊たちが伝えてくる人々の「願い」を聞くらしい。
星の精霊たちが放つ光の強さの違いは、多分願いの強さの違いだろう。
よく見ると光の色も少し違う。
精霊たちの中には、獅子座のレグルスのように青白く輝くものもいれば、蠍座のアンタレスのように赤く輝くものもいた。
俺はその中から、気になる精霊たちを選んだ。
「君たちは、どうして2人ピッタリくっついているの?」
銀色のモフモフした片手(前足)を差し伸べて、イリの神を演じる俺が触れたのは、ひときわ強く青白く輝く2体の精霊たち。
まるで、おおいぬ座のシリウスのように、2つ重なって光を強めている。
彼等は互いを支え合うように、ピッタリと寄り添っていた。
「ボクたちは、双子を見守る星なのです」
「ボクたちが見た双子の話を、聞いて頂けますか?」
「聞こう。君たちが見守る双子は、何を願っているんだ?」
俺が問いかけると、寄り添い合う2体の精霊たちは、とある双子の願いを告げる。
それは、これから謁見に来る人たちの話でもあった。