現実世界、派遣先のドラッグストア。
パートのお姉さんたちが、時々不思議そうな顔をして俺を見てくる。
「来栖くん、なんか雰囲気変わったね~」
「大人っぽくなったような?」
「派遣初期は、高校生と大して変わらない若者って感じだったけどね」
バックヤードで休憩中、そんなことを言われたり。
お姉さんたちは何か子供の成長を喜ぶ親みたいな顔になっている。
……大人も何も、元々成人男子なのに。
俺のイメージって子供っぽかったんだろうか……?
「御堂さん、俺って雰囲気変わった感じしますか?」
「そうねぇ~頼もしくなってきたね」
いつもの倉庫業務、御堂さんに聞いてみたら、そんな言葉が帰ってきた。
ここで働き始めてから、まだ2ヶ月も経ってないけれど。
変わったといえば、俺にも分かる変化が1つ。
現実世界で動物たちに懐かれるようになった。
「クンクンクン、キュウン」
「え~? なんで知らない人に寄っていくの?」
「人懐っこい子ですね」
「この子、いつもは誰かとすれ違っても無関心なんですよ」
ドラッグストアの駐車場、風に飛ばされたPOPを拾いに出たら、通りすがりのワンコが尻尾を振って寄って来る。
飼い主さん曰く、普段はそんなことはしない犬らしい。
「ンーニャ、ンーグルニャ」
「ノラオどうした? オヤツは持ってないぞ?」
犬が飼い主と共に去ったと思えば、今度は野良猫がすり寄って来る。
みんなにノラオと呼ばれている目つきの悪いキジトラ猫は、人に近寄るような奴ではなかった筈。
それが笑うように目を細めて、足にスリスリして甘えるような声を出していた。
「来栖くん、ノラオに餌あげてみて。TNRできるかもしれないから」
「TNRって、前に見た映画でやってた野良猫の避妊去勢手術ですか?」
POPを回収して倉庫へ戻った後。
御堂さんにノラオの話をしたら餌やりを頼まれた。
「そう。ノラオはしょっちゅう喧嘩するし、メスを追い掛け回すから去勢した方がいいと思うの」
「それをしたら何か変わるんですか?」
「タマタマを取っちゃえば、喧嘩する確率は下がるし、繁殖の抑止にもなるわ」
御堂さん、美しい女性が男性との会話の中で「去勢」とか「タマタマ」とか言うのはどうかと思うんだが……。
彼女が野良猫の増え過ぎを防ぐTNRのボランティアをしていることを、俺はこのとき初めて知った。
「私は何度かトライしてみたけど、ノラオは全然寄ってこないし、捕獲機を仕掛けても入らなかったの。来栖くんに触れるくらい懐いているなら、餌でケージに誘導して捕獲してもらえる?」
「分かりました」
俺は何故か懐いたノラオの餌やりをすることになった。
前からノラオの捕獲にトライしている御堂さんは、ロッカー内に折り畳んだ小ケージを保管していた。
ノラオ、なんでスリスリしてきたのか知らないけど、ケージに入ってくれるかな?