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第51話:雰囲気変わった?


 現実世界、派遣先のドラッグストア。

 パートのお姉さんたちが、時々不思議そうな顔をして俺を見てくる。


「来栖くん、なんか雰囲気変わったね~」

「大人っぽくなったような?」

「派遣初期は、高校生と大して変わらない若者って感じだったけどね」


 バックヤードで休憩中、そんなことを言われたり。

 お姉さんたちは何か子供の成長を喜ぶ親みたいな顔になっている。


 ……大人も何も、元々成人男子なのに。

 俺のイメージって子供っぽかったんだろうか……?


「御堂さん、俺って雰囲気変わった感じしますか?」

「そうねぇ~頼もしくなってきたね」


 いつもの倉庫業務、御堂さんに聞いてみたら、そんな言葉が帰ってきた。

 ここで働き始めてから、まだ2ヶ月も経ってないけれど。


 変わったといえば、俺にも分かる変化が1つ。

 現実世界で動物たちに懐かれるようになった。


「クンクンクン、キュウン」

「え~? なんで知らない人に寄っていくの?」

「人懐っこい子ですね」

「この子、いつもは誰かとすれ違っても無関心なんですよ」


 ドラッグストアの駐車場、風に飛ばされたPOPを拾いに出たら、通りすがりのワンコが尻尾を振って寄って来る。

 飼い主さん曰く、普段はそんなことはしない犬らしい。


「ンーニャ、ンーグルニャ」

「ノラオどうした? オヤツは持ってないぞ?」


 犬が飼い主と共に去ったと思えば、今度は野良猫がすり寄って来る。

 みんなにノラオと呼ばれている目つきの悪いキジトラ猫は、人に近寄るような奴ではなかった筈。

 それが笑うように目を細めて、足にスリスリして甘えるような声を出していた。


「来栖くん、ノラオに餌あげてみて。TNRできるかもしれないから」

「TNRって、前に見た映画でやってた野良猫の避妊去勢手術ですか?」


 POPを回収して倉庫へ戻った後。

 御堂さんにノラオの話をしたら餌やりを頼まれた。


「そう。ノラオはしょっちゅう喧嘩するし、メスを追い掛け回すから去勢した方がいいと思うの」

「それをしたら何か変わるんですか?」

「タマタマを取っちゃえば、喧嘩する確率は下がるし、繁殖の抑止にもなるわ」


 御堂さん、美しい女性が男性との会話の中で「去勢」とか「タマタマ」とか言うのはどうかと思うんだが……。

 彼女が野良猫の増え過ぎを防ぐTNRのボランティアをしていることを、俺はこのとき初めて知った。


「私は何度かトライしてみたけど、ノラオは全然寄ってこないし、捕獲機を仕掛けても入らなかったの。来栖くんに触れるくらい懐いているなら、餌でケージに誘導して捕獲してもらえる?」

「分かりました」


 俺は何故か懐いたノラオの餌やりをすることになった。

 前からノラオの捕獲にトライしている御堂さんは、ロッカー内に折り畳んだ小ケージを保管していた。


 ノラオ、なんでスリスリしてきたのか知らないけど、ケージに入ってくれるかな?

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