異世界、神の島の自宅。
ルカファミリーの居室となっている居間で、俺は現実世界でのことをユガフ様に話した。
「なんか最近、あっちの世界で犬とか猫とかに凄く懐かれる気がするよ」
「ふむ。それはおそらく、聖夜の中にイリの神の力が宿ったからじゃな」
「こっちの世界の神の力が、あっちの世界の生き物に影響するの?」
「イリの神の力は生命力を高める効果もあるからの。生き物たちには心地よいと感じるのじゃろう」
今まで寄って来なかったノラオの急な変化は、イリの神の力が影響しているらしい。
散歩中の初対面ワンコが寄って来たのも同じか。
イリの神の力を得る以前に懐いた御堂さんちのムスタは、多分飼い主を助けた者として認識したからかもしれない。
「アーオ、アーオ」
「え? ルカどうしたの? いきなり大きな声出すなんて珍しいな」
ユガフ様と話していたら、ルカがすり寄って来て大声で鳴き始めた。
いつも小さな声で「みっ」としか言わない猫なので、俺は驚いてルカを撫でて聞いてみた。
ルカはいつもより絡みつくように身体をすり寄せて、お尻を上げて前かがみになったりする。
「発情じゃよ。そろそろ次の子を宿す身体になってきたのじゃ」
「どうしてあげたらいいかな?」
「これ以上生ませるつもりがなければ、避妊手術をするべきじゃろうな」
初めて猫を飼う俺には、まだ知識が足りない。
ユガフ様に教えられて、野良猫のTNRだけでなく、飼い猫にも避妊去勢手術が必要であることを知った。
「アーオゥ~」
「ルカも『落ち着かないからどうにかして』と言っておるぞ」
「分かった。じゃあ現実世界の病院で避妊手術してもらうよ」
「それが良いじゃろう」
俺は現実世界へ空間移動した。
ポケットからスマホを取り出してネットで検索すると、職場近くに幾つかの動物病院がヒットする。
クチコミを見て良さそうなところを選び、電話をかけてみた。
「はい、〇〇動物病院です」
「ちょっとお聞きしたいんですが、飼い猫の避妊手術をしてもらえますか?」
「大丈夫ですよ。いつがいいですか?」
「なるべく早目がいいです」
「大人の猫ちゃんですか?」
「はい、2ヶ月くらい前に子供を生んでます」
「出産後2ヶ月ですか。じゃあ明日でもいいですよ」
「では明日でお願いします」
「手術当日はゴハンやお水をあげないで連れて来て下さいね。胃の中に物が入っていると全身麻酔の際に吐いてしまうことが多いので」
「分かりました」
初めてなので緊張したけど、予約はとれた。
あとは当日の朝ごはんや水は抜きで、空腹のルカを病院へ連れて行くだけ。
子供たちが食べてるのを見せたら「なんで私は貰えないの?」って思うから、先にルカを連れて行くことにしよう。