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第54話:ルカの避妊手術


 現実世界、ルカの避妊手術日。

 キャリーはホームセンターで買っておいた。

 猫神様から説明されたルカは、洗濯ネットに入れられても、キャリーに入れられても、無抵抗だった。

 上手に子育てして我が子に愛情を注いでいるルカだけど、発情や妊娠や出産はしんどいので、もうコリゴリだと思っているらしい。

 動物病院の受付まで連れて来ても、ルカはキャリーの中で大人しく丸まっていた。


「朝ごはんは抜いてきましたか?」

「はい」

「体調も良さそうですね。ではお預かりします」


 手術前に簡単な検診を済ませて、ルカは病院の手術室へと運ばれていく。

 俺は自分の手術じゃないのに、内心ドキドキだ。

 ルカの方がよほど落ち着いているかもしれない。


「帰りは午後になります。15時くらいに迎えに来てもらえますか」

「分かりました」


 この病院での猫の避妊去勢手術は、オペ自体は午前中に終わり、麻酔から覚醒させた後しばらく体調を見るらしい。

 特に異常が無ければ、飼い主のところへ帰ってもいいそうだ。


 一旦異世界の自宅に帰宅したものの、ルカのことが心配でソワソワしてしまう。

 意味も無く居間のソファのクッションを両手で持ってモミモミしていたら、ユガフ様に苦笑されてしまった。


「落ち着け聖夜。待ちきれないなら15時になったあちらの世界へ空間移動すればよかろう?」

「あ、そうか」


 俺はすぐにクッションを放り出し、現実世界の15時、病院近くの街路樹の枝葉に隠れて空間移動した。

 近くに人がいないことを確認して飛び降りて、難無く着地。

 異世界で身体を鍛えているので、街路樹の高さくらいは平気で飛び降りられる。


「来栖です、ルカを迎えに来ました~」


 って言いつつ病院の待合室へ入ったら、見覚えのある人とワンコがいた。

 長椅子に座っているのは御堂さん。

 その膝にはムスタがちょこんと座っている。


「あれ? 御堂さん? ムスタ具合悪いんですか?」

「ううん、今日はワクチンを打ちに来たの」


 受付の人が奥の部屋へ行っている間、俺は御堂さんの隣に座って話しかけた。

 御堂さんとムスタはワクチン接種のため病院へ来たらしい。


「何のワクチンですか?」

「ジステンパー、パルボ、伝染性肝炎、伝染性喉頭気管炎、インフルエンザ。5種混合ワクチンっていうの」

「犬にもインフルエンザってあるんですね」

「犬パラインフルエンザウイルスによる呼吸器感染症で、咳、鼻水、発熱などの風邪のような症状が出るのよ」

「鳥インフルみたいに人間に感染したり、人間のインフルが犬にうつることってあるんですか?」

「ウイルスと結合する細胞分子の受容体が人間と犬では異なるので、犬と人がインフルをうつし合うことはないんですよ」


 話しているところへ、ルカ入りキャリーを持った看護師さんが戻ってきた。

 俺たちの会話が聞こえていたらしい看護師さんが、インフルの説明に加わる。

 犬とはインフルをうつし合わないことが分かったけど、猫はどうだろう?


「猫の場合はどうですか?」

「猫にインフルエンザは感染しません。猫の風邪やインフルエンザのような症状は、猫カリシウイルス感染症や猫ヘルペスウイルス感染症など、別の病気によるものなんですよ」


 犬にもインフルがあること以上に、猫にインフルが無いことに驚いた。

 猫はインフルに罹らない代わりに、似たような症状を出すウイルスがあるらしい。


「それらの病気も、ワクチンによって防げます。来栖さんの猫ちゃんがまだワクチンを打っていないなら、今回の手術の抗生剤投与が終わったら、接種してあげて下さいね」

「はい」

「ルカちゃんの子供たちも生後2ヶ月ならワクチンが打てますから、一緒にどうぞ」

「お願いします」


 看護師さんが、猫のワクチンのパンフレットをくれた。

 猫のワクチンについてパンフレットには、ウイルス性鼻気管炎、カリシウイルス感染症、汎白血球減少症への抗体をつける【三種混合ワクチン】、それに白血病ウイルス感染症を加えた【四種混合ワクチン】や、四種にクラミジア感染症を加えた【五種混合ワクチン】もあると書いてあった。


「どのワクチンがオススメですか?」

「完全室内飼いで外部の猫との接触が無ければ、三種で充分ですよ」

「じゃあ、ルカと子供4匹、三種でお願いします」


 看護師さんからオススメを聞いて、ルカたちに打つワクチンの種類が決まった。

 とりあえず、手術後の5日間、抗生剤投与が済んでからだけどね。

 避妊手術後は1週間くらい経てば、ワクチン接種ができるそうだ。

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