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第75話:エスト国の王都サントル


 セーヤの家は、ギルドハウスから徒歩数分の住宅街に建つ庭付き戸建てだった。

 B級冒険者は道楽に溺れたりしなければ、そこそこ裕福であるらしい。


「サヤ、ここが俺たちの家だ。これからはここで子育てしながら薬師の依頼を受けるといいよ。素材は俺が採ってくるから」

「うん。よろしくねセーヤ」


 新婚夫婦は既に2人の共同作業を決めているようだ。

 そのうち、庭に調剤薬局みたいな薬屋がオープンするかもね。


「クルスさん、時々遊びに来てね。手料理を御馳走するわ」

「じゃあ食材を持って遊びに行くよ」


 サヤは俺にも微笑んで話しかけてくる。

 御堂さんと同じで、彼女も料理が得意らしい。

 この世界の家庭料理、どんな物があるのか知らないから楽しみにしておこう。



 ◇◆◇◆◇



 2人を送り届けた後、俺は王都サントル見物に出かけた。

 異世界と現実世界を行き来できるようになって2ヶ月が過ぎたけれど、俺はまだこの世界の街を散策したことがない。

 いざとなれば空間移動で家に帰れるから、街の中で道に迷っても大丈夫。

 俺は気の向くままに、賑やかな街並みを見て回った。


「オラオラ鳥の串焼き、こんがり焼きたてアツアツだよ!」

「クリムゾンボアの焼肉弁当、ランチにいかが~?」

「ひんやり冷たくて甘酸っぱい完熟シキカのジュースはいかがですか?」

「ポムドテルの素揚げ、外はカリカリ中はホクホク揚げたてだよ!」


 花に囲まれた噴水がある中央広場。

 噴水を囲むように屋台が並んでいて、呼び込みの声が聞こえる。

 その外周には帆布のような布地のパラソルが付いた丸テーブルと椅子が並んでいて、そこが飲食スペースっぽい。

 夜明け間もない時間は、この世界では仕事を終えた後の食事タイムで、飲食スペースは屋台で買った物を食べる人たちで賑わっていた。


 オラオラ鳥の串焼き屋台から、塩ダレの焼き鳥に似た香りがする。

 クリムゾンボアの焼肉弁当を通りすがりに見たら、ゴハンは白飯ではなく雑穀っぽいもので、漂ってくるタレの香りは生姜焼きに似ていた。

 完熟シキカのジュースは、見た目や香りがオレンジジュースに似ていて、店主が氷結魔法で氷を作ってカップに入れているのが異世界らしい。

 ポムドテルの素揚げは、どう見ても皮つきフライドポテトだ。


「焼肉弁当1つ下さい」

「はいどうぞ~」

「金貨でも大丈夫ですか?」

「お釣りは用意しているから大丈夫よ~」


 ぐるり一周して屋台を見て回った後、俺はクリムゾンボアの焼肉弁当を買ってみた。

 店主は白い髪に左右の猫耳が黒と茶の色違い、三毛猫っぽい獣人のおばちゃんで、ニコニコ笑う愛想のいい人だ。

 金貨での支払いは日本でいうと屋台で万札を使うようなものだけど、おばちゃんは嫌な顔せずお釣りを出してくれた。


「あそこ空いてるから座って、ゆっくりしていってね~」


 おばちゃんに言われて、俺は近くの飲食スペースに座る。

 店の近くで食べれば、客寄せ代わりになって丁度いい。


 初めて食べる異世界ごはん。

 生姜に似たスパイスと醤油に似たソースで甘辛く味付けされた肉も、もっちりした食感で甘みがある雑穀ごはんも美味しい。

 このごはんがあるってことは、この穀物を売ってる店もあるのかな?

 後で商店街も行ってみよう。

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