商業ギルドの手続きを終え、事務局を出た後。
倉庫街へ戻ってみると、荷物の搬入を終えた人々が街路樹の木陰で休憩しているところだった。
領主様に届けてって言われたフルーツが、まだ俺の異空間倉庫の中に入っている。
でもいきなり見ず知らずの奴が訪ねて行ったって会えるわけないよね?
警備兵に頼んだら渡してくれるかな?
「搬入お疲れ様でした。農家の方から領主さまに届けてほしいと頼まれたフルーツがあるんですが、渡してもらえますか?」
ちょうど立ち上がって帽子を被りなおす制服姿の青年がいたので、俺は声をかけてみた。
サラサラした長い金茶色の髪と猫耳&尻尾。
赤い軍服が似合う獣人の青年は、一瞬キョトンとする。
近くで聞いていた緑の制服の警備兵たちが、同じくキョトンとした後に苦笑していた。
他の警備兵とは制服の色が違うし、金の装飾も入っているから上官とか偉い人だろうか?
そんな人に平民の俺が頼み事をするのは失礼だったかな?
「すいません、偉い人に頼み事なんて失礼ですよね。他の方に……」
「まてまて」
諦めて他の人に頼もうと離れかけたら、赤い軍服の人にガシッと肩を掴まれた。
あれ? 思ってたより声が高い?
っていうか、まさかこれ怒られるやつ?
殴られるくらいならいいけど、牢屋に監禁は嫌だな。
「無知な無礼者ですいません。死刑とか無期懲役は勘弁して下さい」
「君は何をワケの分からないことを言っているんだ。罰なんて与えないから落ち着きなさい」
平謝りする俺に、赤い制服の人は苦笑しながら言う。
とりあえず怒られるわけではないらしい。
改めて声を聞いてみれば、この人は男性ではなく女性だ。
お胸が控え目なので青年と間違えたとか言ったら、今度こそ怒られそうなので黙っておこう。
「渡す物があるのだろう? 出してごらん」
「はい」
赤い軍服の人が、穏やかに微笑んで言う。
中性的な美貌の女性は、少し金色がかった緑の瞳をしていた。
指示に従い、俺は異空間倉庫からカゴ盛りフルーツを取り出して、美青年あらため美女に差し出す。
「ほう、アムラの実か。今年は出来が良いな」
カゴを受け取り、金髪美女が微笑む。
あとはそのカゴを届けてもらえれば、今日の依頼はオールクリアだ。
「では、領主様によろしくお願いします」
そう言って立ち去ろうとした俺の腕を、赤い軍服の美女がガシッと掴む。
何? なんで引き留めるの?
「まあ待て。君も一緒に来なさい」
「えぇっ?!」
ニコニコしながら、俺の腕を掴んだまま歩き出す美女さん。
困惑しながら引っ張られていく俺を、幌馬車の御者たちが面白そうに眺めていた。