景久は、私のために多くの名医を招いた。
私が記憶を取り戻したのは、婚後三年を過ぎた頃だった。
そのことを知った景久は、すぐに政務の多くを脇に置き、私のそばに付き添ってくれた。
激しい頭痛に襲われ、言葉を発することさえできなかった。彼は、涙を堪えながら、限りなく低い姿勢で私に寄り添ってくれた。
「……詩乃、お前は、俺を恨んでいるのではないか。澄信は、お前を守れなかった。お前は谷に落ち、記憶をなくした。なのに私は……お前を、澄信のもとへ返すことなど、どうしてもできなかった。」
「彼は、お前が
その手は、わずかに震えていた。私は耳飾りに手を添えた。記憶が戻って、真っ先に思い出したのが、この耳飾りのことだった。
大宮御所から婚礼の飾りとして賜った数々の宝飾。その中で、私がもっとも気に入っていたのが、この真珠の耳飾りだった。
出かけるときにも、眠るときにも、片時も離したことがなかった。
それはかつて、景久が密かに私に添えた、ひとつの「心」だった。
彼は伏し目がちに言った。
「……あれを贈った頃、私はまだ幼くて、恋というものがどういうものかさえ、分かっていなかった。ただ、月があまりに美しくて、どうかその月が、彼女を照らし続けてくれたらと、そう願っていただけだった。」
「けれど……一度、明月がお前を照らしてくれたのなら、俺はもう二度と、お前を手放したくない。」
私はしばらく黙っていた。
それから、彼の手をそっと握り返し、掠れた声で答えた。
「……私は、あなたを恨んではいません。ただ、頭が少し痛むだけ。でも、平安京には戻ります。澄信のためではありません。私の父母と、あの二人の子どもたちのためです。」
景久の瞳がようやく明るさを取り戻し、穏やかに微笑んだ。
「分かった。ちょうど半月後に天長節がある。そのとき、一緒に京へ戻ろう。」