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第13話

景久は、私のために多くの名医を招いた。


私が記憶を取り戻したのは、婚後三年を過ぎた頃だった。


そのことを知った景久は、すぐに政務の多くを脇に置き、私のそばに付き添ってくれた。


激しい頭痛に襲われ、言葉を発することさえできなかった。彼は、涙を堪えながら、限りなく低い姿勢で私に寄り添ってくれた。


「……詩乃、お前は、俺を恨んでいるのではないか。澄信は、お前を守れなかった。お前は谷に落ち、記憶をなくした。なのに私は……お前を、澄信のもとへ返すことなど、どうしてもできなかった。」


「彼は、お前がと知りながらも、すぐに他の女を娶った。俺は……何年も、お前を待ったんだ。私のほうが、彼よりも、ずっと……」


その手は、わずかに震えていた。私は耳飾りに手を添えた。記憶が戻って、真っ先に思い出したのが、この耳飾りのことだった。


大宮御所から婚礼の飾りとして賜った数々の宝飾。その中で、私がもっとも気に入っていたのが、この真珠の耳飾りだった。


出かけるときにも、眠るときにも、片時も離したことがなかった。

それはかつて、景久が密かに私に添えた、ひとつの「心」だった。


彼は伏し目がちに言った。


「……あれを贈った頃、私はまだ幼くて、恋というものがどういうものかさえ、分かっていなかった。ただ、月があまりに美しくて、どうかその月が、彼女を照らし続けてくれたらと、そう願っていただけだった。」


「けれど……一度、明月がお前を照らしてくれたのなら、俺はもう二度と、お前を手放したくない。」


私はしばらく黙っていた。


それから、彼の手をそっと握り返し、掠れた声で答えた。


「……私は、あなたを恨んではいません。ただ、頭が少し痛むだけ。でも、平安京には戻ります。澄信のためではありません。私の父母と、あの二人の子どもたちのためです。」


景久の瞳がようやく明るさを取り戻し、穏やかに微笑んだ。


「分かった。ちょうど半月後に天長節がある。そのとき、一緒に京へ戻ろう。」

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