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第12話

三ヶ月が経ち、私の顔に残っていた傷もようやく完全に癒えた。


書いた絵を景久に渡したとき、彼の視線が一瞬、私の顔にとどまった。その目には、言葉にできないような感情が一瞬だけ浮かんでいた。


「……君は、出雲国の出身なのか?」


私は静かに首を横に振った。


「いいえ。」


それ以上、彼は何も聞かず、ただ微笑を浮かべた。


「……そうか。国司の次男は間もなく上京して科挙を受けるし、三女もそろそろ縁談が決まりそうだ。……君は、王府に留まる気はあるか?」


王府は安定しており、景久は何事も手厚くしてくれる。私は、膝を折って控えめに答えた。


「喜んで、お仕えいたします。」


それから半月が過ぎた頃、彼はかつて私が売り払った耳飾りを探し出し、そっと私の手に返してくれた。


その日から、彼が訪ねてくる頻度は明らかに増えた。


けれど多くの時間、彼は何も話さず、ただ私が筆を走らせるのを静かに見ていた。


私がふと顔を上げると、彼と目が合うことがあった。けれど彼はすぐに、少し慌てたように視線を逸らした。


その様子が可笑しくて、つい、いたずら心が芽生える。


私は紙に数筆を走らせ、彼の姿を描き出した。


「殿下、少しこちらをご覧になって。」


彼は素直に近づき、絵を覗き込む。そこに描かれていたのは、まぎれもなく彼自身。


次の瞬間、彼の耳は真っ赤に染まった。


それから、また半年ほどの月日が流れ、景久は元服を迎えた。


京からは祝いの品が次々と届き、その中には、結婚を促す旨の密書も混じっていた。


彼はそれを黙って受け取り、数日後、赤くなった顔を隠すようにしながら、私に思いを告げてきた。


私は……たくさん考えた。


一ヶ月もの間、悩みに悩んで、ようやく彼の気持ちを受け入れた。


その後、出雲国の国司が私を義娘に迎え、大宮御所からは懿旨が下され、正式に姫君としての位を授けられた。


私は景久と夫婦になった。

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