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第13話 王子様、降臨

 それは、突然のことだった。



 ピンポンパンポーン♪


『一年D組の乙原夢乃さん。乙原夢乃さん。至急、生徒会室までお越しください』


 たっくんに着せられた濡れ衣のことを考え続けたまま午前の授業が終わり、お昼休みに突入しようとした頃、軽快な木琴風のチャイムが鳴って校内放送が教室に響いた。

 ちーちゃんたちと机を合わせてお弁当を食べるつもりだった私は、それを聞いてキョトンとしながら首を伸ばした。


「えっ。生徒会室……?」

 教室がざわめく。校内放送なんて初めて聞いたし。

「夢乃! 呼ばれてるよ!」

「う、うん。何だろ。私、何か悪いことしたかなあ」

「そうじゃなくて!」


 ちーちゃんもカナちゃんも目をキラキラさせて、私に迫る。


「生徒会室だよ! そこには、誰がいる⁉︎」

「あっ」


 アイスブルーの瞳のキラキラ王子様の顔が浮かぶ。


「生徒会長……木更先輩?」

「そうだよ! あんた、木更先輩に呼び出されたんだよ!」



 辺境田舎貴族出身の私に、とうとうお城から招待状が……⁉︎



「何で⁉︎」

「いいから、早く行ってきな! お弁当は私が食べといてあげる!」

「う、うん! いや、なんで?」

「いいから、行けっ!」



 教室から押し出されるようにして、私は廊下に飛び出した。

 いったい、木更先輩が私に何の用?

 不安と緊張で足がタコになる。関節の動きがおかしい。

 どうしよう、心の準備ができてない!

 目を回し、心臓を弾ませながら懸命に生徒会室に向かうと──。



「うるせえな! てめえには関係ねえって言ってんだろ!」


 生徒会室の中から、聞き覚えのある怒号が聞こえてきた……。

 この声はもしかしなくても。



「たっくん……⁉︎」



 生徒会室というお城の中に、魔王たっくんまで降臨⁉︎

 いったいこの中で何が起きているんだろう。

 不安がのしかかるけど、私は思い切って生徒会室のドアに手をかけた。



「し、失礼しまぁーす」



 ドアを開けた瞬間、私の魂は浄化されそうになった。

 甘い花の香りでほのかに包まれた生徒会室。

 明るい光が差し込む玉座の間。

 その正面の執務テーブルの向こうに、眩しい輝きを放つ超絶イケメンがいた。


「やあ。よく来てくれたね」


 私を見て微笑む王子様、木更先輩……。

 あああっ! 目が、目がああああ!

 尊すぎて目が潰れそうになった私は、思わず両目を閉じた。


「は、はい……お呼びでしょうか……王子様」

「王子?」

「い、いえ、何でもありませえん」


 本当にいた。木更先輩。アイスブルーの瞳ではなかったけど、艶やかな黒髪で黒い瞳の王子様、本当にいましたよ!

 あわわわ、とガクガク震える私の視界を遮るように、赤い影が動いた。


「こんな奴まで呼び出しやがって──てめえ、どういうつもりだ!」


 たっくんだ。

 たっくんが私を背にして、木更先輩と向かい合っている。

 めちゃくちゃ殺気立ってるオーラをビンビン感じます。

 例えるなら、子どもを傷つけられた怒りで目が赤くなって風の谷に突撃する王蟲……みたいな。

 王蟲の怒りは大地の怒りじゃ。わしらにはもう止められんよ。


「だから、さっきから言っているじゃないか」


 木更王子様が椅子から立ち上がって、テーブルの向こうから回り込んで来られる。殺伐とした睨みを効かせるたっくんを正面から清い眼差しで受け止める。


「君が、彼女を脅していたという目撃証言を複数耳にした。生徒会長として見逃すわけにはいかないから、本人に聞き取りをしたいんだ」

「脅してなんかいねえって言ってんだろ!」


 だろ⁉︎ と言いたげに突然振り向いたたっくんの目が血走っていて怖い。


「は、はあい……」


 怖くて震えちゃう私を、同情の優しい眼差しが掬い上げる。


「怖がらないで。大丈夫だよ。君は僕が守ってあげるから、本当のことを言ってほしい」



 ああああ〜〜〜! 王子様が私を守ってくれるってえええええ!!

 どうしよう、頭がパニックなんですけど!






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