「ええと、ええと……」
豆腐になった頭で考える。
つまり。
この状況は、昨日の電車の中でたっくんが私に「好きだ」と言わせたシーンを目撃していた生徒が複数おり、それを聞いて生徒会長として心配した木更先輩がその真偽を確かめようとしている──ということらしい。
「何でてめえにそんなこと説明しなきゃいけねえんだよ」
たっくんがゼロ距離で木更先輩を睨む。
角度によっては二人がキスしているようにも見えるよ! 気をつけて!
何故か私がドキドキしちゃう。
「生徒間の揉め事を解消するのが僕たち生徒会の役割でもあるからね。みんなが安心して学校生活を送れるように風紀を正すことも、僕らは学校側から一任されているんだ」
木更先輩、毅然としている。たっくんのゼロ距離ガン飛ばしに全く動じていない!
「君たちがもしただの恋人関係にあり、公衆の面前で多少目立つ形で愛を語り合っていたということであれば全く問題はない。ただ、君が窓を叩いて恐喝めいた口調で彼女に無理な告白をさせていたとなれば話は別だ。彼女が安全に学校生活を送る権利を守るために、僕は君と戦わなくてはならない」
キラキラとした瞳で魔王に立ち向かう王子様……。
カッコ良すぎて腰が砕けそう。
「ゴチャゴチャうるせえんだよ。引っ込んでろ」
完全に悪者と化したたっくんの右手が、拳を作った。
ヤバい! 先輩が殴られちゃう!
「やめて、たっくん!」
私が叫ぶと、たっくんは不自然に固まった。
「たっくん?」
木更先輩が丸い目で私とたっくんを交互に見る。
するとたっくんがハバネロを100個食べたみたいに真っ赤な顔で振り向いて、私を睨んだ。
「夢乃! てめえ──」
ひええ、たっくんもしかして喧嘩を止められて怒った?
「ご、ごめんなさ」
「その呼び方は、二人の時だけにしろ……! こんなところでイチャイチャすんじゃねえ!」
たっくんは湯気を出しながら吠えた。
って、睨んできた理由、そこ?
「君たちは、本当に付き合っているのか?」
木更先輩が驚いた口調で言った。
「あ”あ⁉︎ 何か文句でもあんのか⁉︎」
たっくんがまた振り向いて先輩を睨みつける。まだ顔の熱は取れてないようで、少し赤い。
「乙原夢乃さん。君に聞きたいな」
先輩はたっくんのガン飛ばしをスルーして、私の目の前に来た。
ずっと憧れていた先輩の、綺麗な瞳が私を見つめてる。
こんな状況で見つめ合えるなんて、なんて皮肉な運命なんだろう。
「彼の言っていることは本当? 脅されて、無理やり好きだと言わされているんじゃない?」
「そ、それは……」
どうしよう。先輩がイケメン。いや、そうじゃなくて。
本当のことを言ったらたっくんがショックで暴れ出す可能性は高い。
止めに入る先輩もタダでは済まない。
私のせいで、イケメン二人が怪我を負う大惨事になりかねない!
ああ、モブの辺境ど田舎出身の私なんかのせいで、なんていうことでしょう!
「脅されてません……」
私にはそう言う選択肢しかなかった。
すると、先輩が震える私の顔を心配そうに覗き込んできた。
「僕の心配をしてくれているのかな? だったら遠慮はいらない。君が僕を守ろうとなんてしなくていいんだよ。素直に、本当のことを言ってほしいんだ」
ああああ〜〜王子、顔面つよっ!
クラクラして鼻血が出ちゃう。
「あう……えと……その……」
「……あれ?」
ノックダウン寸前の私を見つめていた木更先輩が何かに気づいた。
「君はもしかして……卒業式の時の」
私の周りの空気が薄くなって、完全に息ができなくなった。
先輩、私のことを思い出してくれた……!
感動で思わずウルッとしそうになった時、隣からものすごい負のオーラを感じた。
たっくんの嫉妬オーラが業火の炎となって生徒会室を焼き尽くさんがばかりに燃えています!
「それ以上、夢乃に近づくな」
王子と私の間に魔王の腕が差し込まれ、グイッと肩を抱き寄せられる。
たっくんの赤い髪が私の鼻先を
見上げると、男らしくキリッと冴えた眼差しがまっすぐ先輩に向けられていて──。
「こいつは俺の女だ。手ェ出したら殺すぞ」
ズキュ……ズキュキュキュキューン!!!
私のハートが、その瞬間ものすごい音を立てた。