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第15話 倒れたらスキルに覚醒フラグ立ちました?

 目を覚ましたとき、ぼんやりとした視界に最初に映ったのは、見慣れた天井ではなかった。

 重く感じるまぶたをどうにか持ち上げると、すぐ横に座っている人影が目に入る。


「……エリシア、大丈夫か……?」


 低く、かすれた声。それがレオニスだと気づいた瞬間、心臓が飛び跳ねた。


「リ、リオンは!?」


 慌てて辺りをさがすと、リオンが小さな寝息を立てて眠っていた。

 そっと額に触れると、頬の赤みは少し引いていたけど、まだ油断はできない。


 目の前の数値はオレンジに点滅し、注意が必要だと知らせている。


「熱は少し下がった。マリネたちがずっと看病してくれていたんだ。……君は、丸1日眠っていたんだよ」


 そう言いながら彼は視線を落とし、何か複雑な表情をしていた。

 その横顔は、いつもの冷たい仮面ではなかった。疲れ切ってそれでも彼なりに悩んでいるような、そんな顔だった。


(そう……私は倒れたんだ。ついでに前の世界の記憶も、フラッシュバックして……)


 そっと手を胸に当てる。そこには自分でも制御しきれないほど、強く高鳴る鼓動があった。


(とりあえず、リオンが無事で良かった。彼に何かあったら、悔やんでも悔やみきれないから……)


「ありがとう、レオニス」


 急に礼を言われて、彼はほんの一瞬驚いたように目を見開くが、すぐ不器用に視線を逸らした。


「……変わったな、君は」

「そう? ……そうかもね」


 ふっと笑って、すぐ表情を引き締める。


「それより貴方、疲れた顔をしているじゃない。休んできたら?」


 自分でもわかっていた。返した声が少しだけ冷たくなったのを。でも――そう簡単に許せないことも、やっぱりあるから。


(私は私で、守るべきものを決めたの……)


 ふと、視界に光が走る。


『白き手のスキル、1段階レベルアップです!! 新機能追加! 是非お試しください!』


「……え?」


 視界の端で、チカチカと矢印が点滅している。


(はぁ? ……ちょっと待って。これ、どうやってクリックすんの? いや、不親切すぎない!?)


「……シア。エリシア」

「ハッ。……えっ、何?」


「いや、君の顔が……次々と複雑に変化しているから」

「……。ぶはっ! あっ、ごめんなさい、笑っちゃった。随分遠回しな言い方するんだなって思って」


「そんな風にも笑えるんだな……」


 吹き出した私をみて、レオニスは目を丸くする。


「えっ、今なんて言ったの?」

「いや、何でもない。……とりあえずもう少し休め」


 彼はそう言うと立ち上がり、部屋から出て行った。


「……? まあ、いっか」


 私は急いでベッドを抜け出し、リオンの小さな頬に手をそっと当てる。


「新しいスキルとやらを、試してみようじゃないの――」


 目の前の数値の下に、更に小さな文字が流れていく。


「……いや、小さすぎるし早いから! もっとゆっくり、大きく表示して!」


 ハッと気付いて、周りをキョロキョロと見まわした。

 ひとりでブツブツ呟いているところを見られたら、頭がおかしくなったと思われかねない。


 文字はそれを注視すると、拡大できるようになった。


(やっぱり、薬の成分表に書かれていないものが、リオンの身体の中にある!)


 ――中身をすり替えられていた。その事実に、心臓がバクバクと跳ねる。マリネ達と調べた物と同じ成分だった。


「食事はカイがいるし、私達も気を付けてる。他は薬しかないもの――」


 すぐにマリネ達を呼ぼうと考えたが、ふと思い立つ。


 さっきのレオニスの顔が脳裏をよぎった。不器用で、でも思い詰めたようなあの表情。

 彼の驚いて目を丸くした瞬間を思い出すと、ふっと笑いが込み上げた。


「……これ、レオニスを巻き込めばいいんじゃない?」


 我ながらいいことを思い付いた、とニヤリと笑う。さっそくマリネを呼びに向かわせた。

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