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34 ヒドラ対おっさんん魔導士たち

 魔狼たちがヒドラを見つけたらしい。

 どうりで、いつも倉庫付近にたむろっている魔狼たちがいないと思ったのだ。


 俺には聞こえないが、きっと遠吠えが飛び交っているのだろう。

 子魔狼たちが、小さな口を大きく開けて、可愛く遠吠えをしている。



 俺はクルスたちに向けて言う。


「ヒドラが見つかったんだって。ちょっと行ってくるわ。フェム手伝って」

『森を守るのはフェムの役目である』


 フェムは尻尾を振って、大きくなった。


「そういえば、魔狼王がいるとか言ってたわね。可愛いから忘れていたわ」

「わふ」


 ルカの言葉に、フェムは首をかしげる。

 俺にはわかる。フェムは確実に照れている。


「先日逃がしちゃいましたからね。ぼくが仕留めますよー」


 クルスがすごく張り切っている。不安になるので落ち着いてほしい。


「ヴィヴィは村が襲われた時のために残っといて」

「わかったのじゃ。モーフィと一緒に村を守るのじゃ」


 村の守りをヴィヴィたちに任せると、俺たちはヒドラ討伐に向かう。

 俺はフェムの背に乗った。クルスとルカはその横を走って付いて来る。


 フェムはかなりの速さで走っているが、クルスとルカは余裕の表情だ。

 このペースが勇者パーティの普通なのだ。

 俺もひざが元気なころは、この速さで移動していた。


「やっぱり、冒険は厳しいかもな」


 つい、俺は独り言をこぼす。

 いまのひざではとてもじゃないが、付いていけない。


 フェムは、時折止まると、遠吠えする。魔狼たちに位置を聞いているのだろう。


『こっちである』


 フェムが走っていく先に、それはいた。

 九つの首を持つ蛇だ。胴体は、大人が5人がかりでないと抱えられないぐらい太かった。


「なんとまあ、立派に育ったものね」


 ルカが呆れたように言う。


「油断するなよ」

「わかってます!」

「ヒドラといえば、——」


 猛毒が有名だから気をつけろ。

 そう、俺が忠告するまえに、勇者クルスが飛びかかる。


「——くらえぇ!」


 いくら勇者とはいえ、勇敢にもほどがある。無謀もいいところだ。

 それをカバーするのが俺たちの役目。


 ルカは無言で、クルスの後ろについて走る。

 フォローするためだ。


 俺は魔法で、閃光を二発放つ。ヒドラの目をくらませるためだ。

 ヒドラは一瞬だけひるむ。


 それだけでクルスには十分だ。瞬く間に首を三本落とした。

 だが、四本目を落とす前に、猛毒の霧を浴びる。


「うわっ」


 クルスはまともに浴びる。


「油断するなって言われたわよね?」


 戦士ルカが、クルスの襟首をつかむと、後ろに放り投げる。

 そして自分も首を一つ切り落とすと、後ろに飛ぶ。

 ルカは間合いを絶妙に調節しながらヒドラを翻弄している。


「うわぁ。臭いよお」


 クルスは半泣きだ。


 ヒドラの毒は猛毒だ。

 伝承ではヒドラが寝た後を通っただけで死ぬとまで言われている。

 曰く解毒方法がない。曰く必ず死ぬ。ものすごく苦しい。などなど。


 その伝承は大げさだ。だが、猛毒であることには変わりない。


「大丈夫か?」

「はい。臭いですけど大丈夫です」


 クルスは無事だった。

 クルスが勇者たる所以の一つ。状態異常耐性が異常に高いのだ。

 ちなみに、精神力耐性も異常に高い。


「いいか。ヒドラは猛毒で有名だからな。気をつけろよ」

「なるほど。わかりました!」


 クルスは再びヒドラに向かう。


「遅いわよ!」

「ごめん」


 ルカと入れ替わって、クルスはヒドラと対峙する。鮮やかな剣技で、ヒドラの首を落とす。

 俺はクルスの背中を守るように魔法を飛ばした。


「毒が来るってわかってたら、怖くないよ!」


 クルスは毒も軽くかわす。

 それを最初からやってほしい。


「アル! 首が復活してるんだけど!」


 ルカの叫び声が響いた。

 クルスとルカが首を七本落としたのに、五本新しく生えてきている。


 ヒドラの生命力は高い。首を落としても三日で再生すると言われている。

 だが、戦闘中に生えてくるのは、さすがに異常だ。


「きりがないわよ!」

「何本落とせば復活しなくなるのかな。楽しくなってきた」


 ルカは困惑しているが、クルスはワクワクしているようだ。

 流石勇者。豪胆が過ぎる。


「今まで通り戦ってくれればいい。俺がなんとかする」

「任せたわよ」


 戦士ルカがヒドラの意識をひきつけて、クルスは素早く首を落としていく。

 そして、俺はその傷口を火炎で焼いた。


「GROAAAAAA!!!!!」


 首を切り落としても鳴き声を上げなかったヒドラが苦悶の声を上げた。

 俺はそのまま傷口を炭にする。


「これでまだ、生えてきたら恐ろしすぎるんだが」

「様子を見てみましょう!」


 クルスはそんなことを言いながら、ぴょんぴょん跳ねて翻弄している。


「様子って、あんたねぇ。余裕ぶってたら痛い目見るわよ」

「わかりました」


 ルカの忠告にクルスは素直に返事する。

 ルカもそうは言いながら、少し距離をとって様子をうかがっている。


 しばらく、待ってみたが炭化した傷口から首は再生しなかった。


「お、火炎で焼けば大丈夫だな」


 火炎で再生を妨げられるなら、倒すのは容易い。森に引火しないよう手加減するのが面倒なぐらいだ。


「GRRRRRRR」


 俺を先につぶすべきだと、ヒドラは判断したのだろう。

 叫びながら突っ込んでくる。

 猛毒の霧を吐きながら、牙を剥く。


 だが、牙はフェムが華麗にかわしていく。

 猛毒は風魔法で跳ね返した。


 俺に意識が向いているヒドラは、クルスやルカの敵ではない。

 瞬く間に首を落としていった。


 その傷口を俺は素早く焼いていく。ちょっと焼いただけではだめだ。

 炭化させなければならない。


 クルスたちと俺の連携で、再生する間もなくヒドラの首は全部落ちた。

 すかさず胴体もクルスがばらばらにする。


「異常な強さね。クルス一人だったら危なかったんじゃない?」

「えー、そうかなー?」


 クルスは首をかしげている。

 確かにヒドラは、クルスが苦手とするタイプの一つだろう。相性が悪い。

 それでも苦戦はしながらも、クルスは一人でも倒し切るに違いない。

 俺ならクルスより早く倒す自信はある。だが周囲の被害が大きすぎる。

 そして、ルカだけなら負けていた。


「ゴクリ」


 クルスがつばを飲み込む音がした。


「焼肉食べたくなったね」


 クルスがそんなことを言う。


「ヒドラの焼けた傷口の臭いで焼肉連想するのってあんたぐらいよ?」

「そうかなぁ?」


 ルカは呆れたが、クルスはなぜか照れている。

 褒められてはいないのだが。

 ルカもあきらめているのか、クルスには何も言わない。


 そして、ルカは戦利品回収を開始した。戦利品回収は冒険者の習性だ。

 一方、クルスは目をキラキラさせて聞いてくる。


「アルさん、ぼくの戦い方どうでしたか?」

「相変わらずみごとな剣技だと思うぞ」

「えへへ」

「だが、後先考えずに、突っ込むのはやめたほうがいいぞ」

「はいっ!」


 いつも返事だけはいいのだ。

 フェムが俺に体をこすりつけてくる。


「わふぅ」

「フェムもありがと。助かったよ」

「わふわふ」


 フェムも嬉しそうだ。

 ふと気づくと、魔狼たちが集まって来ていた。


 いつも戦闘が終わると集まってくる。邪魔にならないよう、遠巻きに見ているのだろう。


「魔狼たちもお疲れ。見つけてくれて助かった」


 魔狼たちも尻尾をブンブン振っている。


「あんたたち、早く戦利品回収手伝ってくれない?」


 少し怒り気味にルカが言う。


「あ、はい。ただいま」


 俺は急いで、剥ぎ取りするために移動した。

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