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4章

114 秋。それは税の季節

 森の隠者、ヴァリミエが去った次の日。朝起きて、小屋の外に出ると涼しかった。

 季節はもはや秋である。

 暑い日には早く涼しくなって欲しいと願ったものだが、いざ涼しくなってみると寂しく思う。


 涼しい空気を胸いっぱいに吸っていると、村長がやってくるのが見えた。


「アルさん、おはようございます。今日もお早いですね」

「村長、おはようございます。どうされました?」

「魔人はもう大丈夫と考えても?」

「はい、お騒がせしました。もう大丈夫だと思いますよ」

「りゃっりゃ」


 俺にしがみついたままのシギショアラが、元気に鳴く。

 それを見て村長は口元を緩めた。シギは可愛いのでしょうがない。


 俺は村長に定期的に状況説明をしている。だから魔人のことは早朝にわざわざ聞きに来るようなことではない。

 これは念のための確認だろう。いや、本題に入る前の前置きかもしれない。

 俺は村長が本題を切り出すまで世間話でつなぐことにした。


「おかげさまで、シギはすくすく成長していますよ」

「それはそれは。シギさん、大きくなるんですよ」

「りゃあ」


 村長はシギを優しくなでる。シギも嬉しそうに鳴く。

 しばらくそうした後、村長は真面目な顔で言う。


「ところで、アルさん」

 本題だ。


「税の季節がやってきました」

「ついに来てしまいましたか」

「はい」


 村長は重々しくうなずいた。

 俺はあまり税の季節にはなじみがない。冒険者の税は依頼料から直接天引きされるのが基本だからだ。

 一年に一度まとめて徴収する形は、すぐ死ぬ冒険者にそぐわない。

 それに、いつ死ぬかわからない冒険者は得た金をすぐに使ってしまう。だから、報酬から直接徴収してしまうのだ。


「冒険者だったので、あまり仕組みとかわかっていないんですよ」

「そうでしたか」


 村長は説明してくれる。

 基本は収穫量の3分の1だ。それには畜産、農業両方含まれる。

 そして、それに加えて住民税だ。一人当たりいくらと決まっている。

 徴収は村単位だ。村で総額いくら払えと領主に言われるのだ。

 そのあと村の誰がどう分担するか。それは村の中で決めることになっている。


「ちなみに去年はおいくらぐらい?」

「えっと、このくらいです」


 村長は帳簿を見せてくれた。かなり高額だった。

 税の設定は領主によって異なる。ムルグ村の領主はかなり高めのようだ。

 貧しい村なのに、かなり取られている。


「高くないですか?」

「はい。住民税の一人当たりいくらというのが、王都並みなんですよ」

「それはひどい」

「その上、収穫量の3分の1というのも曲者で」

「3分の1は、3分の1なのでは?」

「いえ、違うのです」


 村長は深刻そうな表情で説明してくれた。

 収穫量の3分の1と言っても現物で払うわけではない。現金で支払うことになる。

 そして、その値段を査定する仕組みが問題なのだ。


 農地面積に応じて、収穫量を勝手に推定されるのだという。そしてそれは実際の収穫量より多い。

 その上、品質も一律に最高級品として査定されてしまう。

 結果、質が悪くて売り物にならず、自分たちで消費するしかない分も最高級品として税がかかるのだ。


 肉なども牛一頭いくらとして決まっている。その額は体格のいい最高級の牛一頭分だ。

 その上、やはり自家消費の分も販売した分も区別されない。

 それどころか病で死んで売れなかった牛まで、販売したことにされてしまう。


「実際に売って得た金額がわかる納品書などで説明してもダメなのですか?」

「はい。全く認めてもらえません」


 少し悔しそうに村長は頷いた。

 収穫を隠すかもしれない。販売した牛を病死とごまかすかもしれない。

 そんなことを言って認めてもらえないのだそうだ。


「実際の税額は、村の収入の6割といったところでしょうか」

「それは……きびしいですね」


 冒険者のころ、報酬から差し引かれていた税額は2割だった。

 それに比べたらかなり厳しい。


「アルさんは村の一員として登録してありますので、大丈夫なのですが……」

「ヴィヴィたちですか?」

「はい。ヴィヴィさんや、クルスさんたちは旅行者の扱いなので……」

「なるほど」


 ヴィヴィたちは住民税の頭数に入っていないということだ。

 領主は魔族が大嫌いであると村長が以前言っていた。

 魔族であるヴィヴィを住民登録するのはリスクが高いのだろう。

 それに、クルスたちは王都に家を持つ王都の住民だ。王都の方で税金を払っている。

 王国の法では、ムルグ村でも二重に支払う必要はないのだ。だが、それを説明するのはとても面倒ではある。


「ですから、領主の査察が入ったときにはヴィヴィさんたちは隠れていてほしいのです」

「わかりました」


 もしかしたら、畑を増やしたことも税額の負担になるかもしれない。迷惑だっただろうか。

 俺は心配になって尋ねてみる。

 村長は笑顔で首を振る。


「いえ、大丈夫ですよ。イモの畑はもともと税額は少ないですし。それに開墾したばかりの畑に税がかかるのは来年からです」

「それはよかった。安心です」


 俺は倉庫と衛兵小屋を見る。小屋と言ってもほぼ屋敷である。


「この建物も大丈夫ですか?」

「建物には税金はかかりませんから大丈夫ですよ」

「それはよかった」


 なんでも村長が言うには、税が住民と収穫物にかかるのが村なのだという。

 そして税が住民と建物にかかるのが町なのだそうだ。つまりムルグ村は村なので、建物には税金がかからないのだ。


「いつ査察に来るかわからないので、一応覚えておいてください」

 そう言って村長は去っていった。


 税金とは世知辛いものだ。

 畑の面積に応じて税がかかるとは、土地のやせたムルグ村にとっては厳しい仕組みだ。そのうえ、できた作物は自動的に最高級品として扱われてしまうのだ。

 だが、いい面もある。

 魔法陣で土地改良し放題ではないか。いくら増産しても、品質が上がっても、税額は変わらないのだ。


「アル。今日は早いのじゃな?」

「ヴィヴィ!」

 少し大きめの声が出てしまった。ヴィヴィを少しびっくりさせてしまった。


「な、なんじゃ。騒々しい」

「土地と牛のの改良。頑張ろうな!」

「お、おう?」


 ヴィヴィはきょとんとしながらうなずいた。

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