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199 ティミショアラのにおい

 再び気絶した男たちを見て、ティミショアラは小さく鳴いた。

 そして、あきらめたように爪の先で首根っこをつかんでこちら側に飛んできた。


「気絶してしまったのである」

「そりゃ、古代竜の咆哮食らったら気絶するだろ」

「一度目を覚まさせたのだが……」

「古代竜の姿は大きいからな。迫力あるし」

「むむう。情けない奴らだ」


 それから、ティミが考えながら言う。


「仕方ないし、このまま村まで連れて行ってやるか」

「上空を飛んで?」

「そうだが」

「空の上で目を覚ましたら、また気を失うと思うぞ」

「別にかまわぬのでは?」

『フェムもかまわぬと思う』


 フェムまでそんなことを言う。

 ティミもフェムも腹を立てていた。

 臨時補佐たちは少し懲りたほうがいいと考えているのだろう。


「まあ、いっか。空を飛んだ方が速いしな」

「うむ」


 そういって、ティミが飛びあがりかけたとき、

「り゛ゃっ!」

 シギショアラが変な声で鳴くと、ティミの頭の上から俺の方へと飛んできた。


「シ、シギショアラ、どうしたのだ?」

「り゛ゃあっ!」


 シギは俺の懐に入ると、顔だけ出して鼻を両手で抑えている。

 臭いと訴えているようだ。

 色々なものを垂れ流しているので、臨時補佐たちは当然臭いのだ。


「シギ、臭いのいやなのか?」

「りゃあ」

「臭いからティミと一緒に居たくないのか?」

「りゃっりゃー」

「そっか。ティミ臭いもんな。仕方ないな」

「rya……」


 ティミがショックを受けたような声をだした。

 顔もどこか引きつっている気がしなくもない。

 竜の表情は読みにくいがそんな気がする。


 そんなティミがぽつりと言った。


「……こいつらはここに置いていく」

「運ばないのか?」

「……臭いから運ばない」

「そうか」


 ティミは道の真ん中に臨時補佐たちを横に並べる。

 そして、距離をとった。


 俺は少し考えた。ここに臨時補佐たちを放置しても大丈夫だろうか。

 要望通り川を渡らせた。

 それに今の気絶は、咆哮によるものではない。巨大なティミに驚いたゆえの気絶だ。

 放っておいても、すぐに気が付くだろう。


「大丈夫かな。魔獣に襲われたりしないよな?」

『ここには数週間、いや数か月は近づく魔獣はいないのだ』

「ティミの咆哮のせい?」

『それに加えてティミの匂いなのだ』


 それを聞いていた、ティミが慌てる。


「わ、われは臭くないぞ!」

「わかっているぞ」

「本当に臭くないのだぞ」

「わかっているって。フェムが言っているのは古代竜の存在感的なあれだからさ」

『匂いはするのだ』


 俺がフォローしたのに、フェムが追い打ちをかける。

 そのせいでティミがショックを受けている。


「こら、フェム。余計なこと言わないの」

「わふ?」


 フェムには悪気は無いのだろう。首をかしげている。

 鋭い嗅覚を持つフェムにとっては、すべての生物は強い匂いを発している。

 みな匂いの塊と言っていい。

 だから匂いがするということ自体は当たり前で、悪口とかではないのだ。


「アルラ! よく嗅ぐがよい!」

「ちょ、ちょっとまて」


 巨大なティミに抱き寄せられる。

 抱き寄せられると言っても、指先で首のあたりに押し付けられるといった感じだ。

 ティミの鱗は不思議な感触だ。すべすべして、少し暖かい。


「ほら、アルラ。思う存分嗅ぐがよい」

「お、おう」

「臭くないだろう?」

「うん、いい匂いだぞ」

「そ、そうか」


 ティミは少し照れた様子で、俺を離す。

 そして、俺の懐内にいるシギに呼びかける。


「シギショアラ、叔母さんは臭くないぞー」

「りゃあ」


 シギはパタパタとティミのもとへと飛んでいった。

 シギが戻ってきてくれて、ティミはとても嬉しそうだ。


 そんなご機嫌なティミに言う。


「ティミ、そろそろ人型になっていいのでは?」

「なぜだ?」

「大きいとみんなびっくりするし」

「むむう」

「それに、しばらく木の伐採作業もないし。空を飛んで帰るわけでもないし」

「この姿の方が、シギショアラが喜ぶのだが?」

「りゃあ?」


 シギは確かに大きい方が喜ぶ。

 だが、巨大すぎるので色々と不都合がある。


「それでもな。人型の方がいいと思うぞ」

「むむ。仕方ないな」


 ティミは、すぐに人型に戻った。

 服装はつなぎの作業着に麦わら帽子である。

 気に入ったのかもしれない。


「では、村まで走るか」

「わふ」


 フェムがすぐに大きくなった。

 そして、背に乗るよう、俺に目で促してくる。


「ティミもフェムも、ちょっとまて」

「どうした?」

「わふぅ?」


 ティミとフェムは首をかしげる。


「道を通ったら、技術者の人たちに追いつくだろ?」

「それは、そうだろうな」

『当然追いつくのだ』

「ティミもフェムも速すぎるから、驚かせることになる」

「むう」

「わふぅ」


 ティミとフェムは真面目な雰囲気で考え始める。


「わかったぞ」

『わかったのだ』

「わかってくれたか」


 話せばわかってくれる賢い者たちなのだ。


『アル、フェムの背に乗るのだ』

「おお、ありがと」

『では行くのだ』

「シギショアラ、しっかり掴まっているのだぞ」

「りゃああ!」


 それからフェムとティミは道をそれた。森の中へと走りこむ。


「ちょ、ちょっと!」

『森の中を走れば、技術者たちに追いつくことはないのだ!』

「そのとおりだぞ」

「りゃっりゃ!」


 森の中をものすごい速さで駆けていく。すれ違う木々との相対速度がものすごく速い。

 そしてシギは、とてもご機嫌に鳴いていた。

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