倉庫から出てきたティミショアラはシギショアラを撫でまくる。
シギも嬉しそうにティミにほおずりしていた。
そんなティミに向かって、ステラが言う。
「そこのお方! 私と勝負してほしいのです」
「勝負? どんな勝負であるか?」
「私はリント卿と同門の魔導士ステラと申すものなのです! 私と戦ってほしいのです」
今回のステラの自己紹介は正しい。
ルカにステラは俺の弟子だと名乗った。だから訂正する必要があった。
だが、今回は同門の魔導士と名乗った。それはなにも間違っていない。
俺の師匠と、ステラの師の師、つまり大師匠が同じなのだ。
だから、俺は訂正しない。黙って聞いておく。
ステラの名乗りを聞いて、ティミはちらりと俺を見た。
「ほう。ステラとな?」
「そうです。ステラなのです」
「よりにもよって、ラを名乗るとはな」
「ラを名乗るとは一体どういう意味なのです?」
ステラは首をかしげている。
ティミは誤解しているようだ。俺は慌てて訂正する。
「ステラのラは栄光あるラじゃなくて、もともと人族のステラという名前なんだ」
「なるほど。そうであったか?」
ティミはうんうんと頷く。
「それはそれとして、アルラと同門の魔導士とな? 面白い」
「ぜひ、私と勝負してほしいのです」
「かまわぬぞ。我が姉に勝ったアルラと同門と聞けば、しかも、偶然とはいえラを名乗る者とくれば、興味がわく」
そして、ティミは俺にシギを手渡す。
それから背を向けて、歩き出した。
「場所を変えよう。ついて来るがよい」
「ありがとうございます!」
ステラはお礼を言うと、ティミについて歩き出した。
俺もその後ろをついて行く。
ヴィヴィにモーフィ、フェムも一緒についてきた。
「夕ご飯の準備しておきますね」
そういって、ミレットとコレットは小屋に戻った。
ヴィヴィが俺の袖を後ろから引っ張る。
「や、やばいのじゃ」
「りゃっりゃ」
「勝てないだろうけど、ティミは殺しはしないだろうし」
「そうかや? 不安なのじゃ」
「りゃあ」
シギも心配しているようだ。
「力量差があるほど、手加減できるものだし」
「ふむう」
「ティミほど強ければ、戦闘モードで対峙すればステラの力量はわかるだろう」
「りゃあ?」
シギは俺の肩に乗って、羽をバタバタする。
そして俺の耳をハムハムする。
「シギくすぐったいぞ」
「りゃ!」
シギは俺になにやら抗議しているようだ。
「大丈夫。危なくなったら止めるからさ」
「りゃあ」
やっとシギは納得したようだ。
しばらく歩いて村から離れるとティミは立ち止まる。
「アルラの同門の若き人の魔導士よ。そなたはどれほど強いのか?」
「アルフレッドさんよりもだいぶ未熟だと思います」
「なるほど」
そして、俺の方をちらりと見た。
俺は正直に言う。
「ここまで移動してもらって、悪いのだが……ティミが強敵と試合したいのなら期待外れだと思うよ」
「そうか。それならば、それでもよい。だが、今度、アルラは我と試合してほしいところではあるのう」
「機会があればな」
「りゃっりゃ!」
シギが機嫌よさそうに鳴いた。
「一度、我とアルラの戦闘というものもシギに見せたいからの」
「それはそうだな。今度頼む」
「うむ」
そして、ティミはステラに向き合う。
「どういう試合が希望であるか? そなたの攻撃をうければよいのか? それとも我の攻撃を受けたいのか?」
「私の攻撃を受けて欲しいですし、あなたの攻撃も受けてみたいのです」
「ふむ。ならば、まずは好きに攻撃すればよい。先に我が攻撃すれば、反撃もできまい」
「わかったのです。ありがとうございます」
ステラはルカにコテンパンに負けたせいか、すごく謙虚だ。
そんなステラの様子を見て、ティミは満足げにうなずいた。
「名乗りがまだであったな。我が名はティミショアラである」
その後、ティミは本来の姿に戻った。
空気が膨張するような、圧を感じる。強い風が吹いた。
そして、巨大化モーフィよりも大きい古代竜の姿が現れる。
「ひぃぃ」
「好きに攻撃するがよい」
がくがく震えるステラに、優しい口調でティミは言う。
「はわ、あわはわ……」
ステラのひざが笑っている。立てなくなって、へたり込む。
「む? 攻撃しなくてよいのか?」
ティミは首をかしげた。とても可愛らしい。
にもかかわらず、ステラはガクガク震えて動けないようだ。
「ティミ。ステラはビビっているみたいだ。落ち着くまでしばらく待ってくれないか?」
「仕方がないな」
「りゃあ」
シギが嬉しそうにパタパタ飛んでいく。
そしてティミの頭の上に着地した。
「やはりシギショアラはこの姿が好きなのだな」
「りゃありゃあ」
ティミとシギはステラが立ち直るまで遊ぶことに決めたようだ。
俺はステラに駆け寄った。
「大丈夫か? 降参してもいいぞ」
「……い、いえ。実際の戦闘ならまだしも、これは試合なのです。や、やれるのです!」
「そうか、無理はするなよ」
五分後、ステラは立ち上がる。根性はあるようだ。
「失礼いたしました。胸を借りさせていただくのです」
「うむ。いつでもよいぞ」
それでもステラのひざはまだ笑っていた。そのひざをステラは叩く。
そして詠唱を開始した。
「——四大精霊が一柱。偉大なる火の精霊王の眷属よ。
我が魔力をもって、顕現せよ。
異界の炎をもって、この世の理をねじ伏せよ!
我が名はステラっ!」
ステラの放った火の魔法は、ルカ戦で使った手数を重視したものではない。
渾身の魔力を込めて、最大火力で放った攻撃魔法だ。
それをティミは防ぐこともしない。そのまま体で受ける。
竜種がデフォルトで張っている魔法障壁もあえて解除していた。
「ふむ。このぐらいであるか」
だが、ステラの火の魔法はティミになんのダメージも与えていない。
鱗を焦がすこともできなかった。
「そ、そんな……」
「では次に我から行くぞ」
ティミは軽く息を吸った。
「RYA」
「りゃああああ」
シギと一緒に小さく一声つぶやくように鳴いた。
そして、ステラは気を失った。