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221 ティミショアラ対ステラ

 倉庫から出てきたティミショアラはシギショアラを撫でまくる。

 シギも嬉しそうにティミにほおずりしていた。

 そんなティミに向かって、ステラが言う。


「そこのお方! 私と勝負してほしいのです」

「勝負? どんな勝負であるか?」

「私はリント卿と同門の魔導士ステラと申すものなのです! 私と戦ってほしいのです」


 今回のステラの自己紹介は正しい。

 ルカにステラは俺の弟子だと名乗った。だから訂正する必要があった。

 だが、今回は同門の魔導士と名乗った。それはなにも間違っていない。

 俺の師匠と、ステラの師の師、つまり大師匠が同じなのだ。

 だから、俺は訂正しない。黙って聞いておく。


 ステラの名乗りを聞いて、ティミはちらりと俺を見た。


「ほう。ステラとな?」

「そうです。ステラなのです」

「よりにもよって、ラを名乗るとはな」

「ラを名乗るとは一体どういう意味なのです?」


 ステラは首をかしげている。

 ティミは誤解しているようだ。俺は慌てて訂正する。


「ステラのラは栄光あるラじゃなくて、もともと人族のステラという名前なんだ」

「なるほど。そうであったか?」


 ティミはうんうんと頷く。


「それはそれとして、アルラと同門の魔導士とな? 面白い」

「ぜひ、私と勝負してほしいのです」

「かまわぬぞ。我が姉に勝ったアルラと同門と聞けば、しかも、偶然とはいえラを名乗る者とくれば、興味がわく」


 そして、ティミは俺にシギを手渡す。

 それから背を向けて、歩き出した。


「場所を変えよう。ついて来るがよい」

「ありがとうございます!」


 ステラはお礼を言うと、ティミについて歩き出した。

 俺もその後ろをついて行く。

 ヴィヴィにモーフィ、フェムも一緒についてきた。


「夕ご飯の準備しておきますね」

 そういって、ミレットとコレットは小屋に戻った。


 ヴィヴィが俺の袖を後ろから引っ張る。


「や、やばいのじゃ」

「りゃっりゃ」

「勝てないだろうけど、ティミは殺しはしないだろうし」

「そうかや? 不安なのじゃ」

「りゃあ」


 シギも心配しているようだ。


「力量差があるほど、手加減できるものだし」

「ふむう」

「ティミほど強ければ、戦闘モードで対峙すればステラの力量はわかるだろう」

「りゃあ?」


 シギは俺の肩に乗って、羽をバタバタする。

 そして俺の耳をハムハムする。


「シギくすぐったいぞ」

「りゃ!」


 シギは俺になにやら抗議しているようだ。


「大丈夫。危なくなったら止めるからさ」

「りゃあ」

 やっとシギは納得したようだ。


 しばらく歩いて村から離れるとティミは立ち止まる。


「アルラの同門の若き人の魔導士よ。そなたはどれほど強いのか?」

「アルフレッドさんよりもだいぶ未熟だと思います」

「なるほど」


 そして、俺の方をちらりと見た。

 俺は正直に言う。


「ここまで移動してもらって、悪いのだが……ティミが強敵と試合したいのなら期待外れだと思うよ」

「そうか。それならば、それでもよい。だが、今度、アルラは我と試合してほしいところではあるのう」

「機会があればな」

「りゃっりゃ!」


 シギが機嫌よさそうに鳴いた。


「一度、我とアルラの戦闘というものもシギに見せたいからの」

「それはそうだな。今度頼む」

「うむ」


 そして、ティミはステラに向き合う。


「どういう試合が希望であるか? そなたの攻撃をうければよいのか? それとも我の攻撃を受けたいのか?」

「私の攻撃を受けて欲しいですし、あなたの攻撃も受けてみたいのです」

「ふむ。ならば、まずは好きに攻撃すればよい。先に我が攻撃すれば、反撃もできまい」

「わかったのです。ありがとうございます」


 ステラはルカにコテンパンに負けたせいか、すごく謙虚だ。

 そんなステラの様子を見て、ティミは満足げにうなずいた。


「名乗りがまだであったな。我が名はティミショアラである」


 その後、ティミは本来の姿に戻った。

 空気が膨張するような、圧を感じる。強い風が吹いた。

 そして、巨大化モーフィよりも大きい古代竜の姿が現れる。


「ひぃぃ」

「好きに攻撃するがよい」


 がくがく震えるステラに、優しい口調でティミは言う。


「はわ、あわはわ……」

 ステラのひざが笑っている。立てなくなって、へたり込む。


「む? 攻撃しなくてよいのか?」


 ティミは首をかしげた。とても可愛らしい。

 にもかかわらず、ステラはガクガク震えて動けないようだ。


「ティミ。ステラはビビっているみたいだ。落ち着くまでしばらく待ってくれないか?」

「仕方がないな」

「りゃあ」


 シギが嬉しそうにパタパタ飛んでいく。

 そしてティミの頭の上に着地した。


「やはりシギショアラはこの姿が好きなのだな」

「りゃありゃあ」


 ティミとシギはステラが立ち直るまで遊ぶことに決めたようだ。

 俺はステラに駆け寄った。


「大丈夫か? 降参してもいいぞ」

「……い、いえ。実際の戦闘ならまだしも、これは試合なのです。や、やれるのです!」

「そうか、無理はするなよ」


 五分後、ステラは立ち上がる。根性はあるようだ。


「失礼いたしました。胸を借りさせていただくのです」

「うむ。いつでもよいぞ」


 それでもステラのひざはまだ笑っていた。そのひざをステラは叩く。

 そして詠唱を開始した。


「——四大精霊が一柱。偉大なる火の精霊王の眷属よ。

 我が魔力をもって、顕現せよ。

 異界の炎をもって、この世の理をねじ伏せよ!

 我が名はステラっ!」


 ステラの放った火の魔法は、ルカ戦で使った手数を重視したものではない。

 渾身の魔力を込めて、最大火力で放った攻撃魔法だ。


 それをティミは防ぐこともしない。そのまま体で受ける。

 竜種がデフォルトで張っている魔法障壁もあえて解除していた。


「ふむ。このぐらいであるか」


 だが、ステラの火の魔法はティミになんのダメージも与えていない。

 鱗を焦がすこともできなかった。


「そ、そんな……」

「では次に我から行くぞ」


 ティミは軽く息を吸った。


「RYA」

「りゃああああ」


 シギと一緒に小さく一声つぶやくように鳴いた。

 そして、ステラは気を失った。

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