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223 弟子入り

 小屋に戻ると、ヴィヴィがステラをお風呂場に連れて行った。ヴィヴィの優しさだろう。

 モーフィもついて行った。モーフィはお風呂が大好きなのだ。


 一方、ルカはお風呂からすでに上がっている。


「あら、ステラちゃんはティミと試合したのね」

「そうなんだ」

「アルは姪弟子に結構厳しいのね」

「そんなつもりはないのだが……」

「で、どうするの? 弟子にするの?」

「ステラが何を望んでいるか次第だろうな」

「そ、頑張ってね」


 そういって、ルカは食堂へと向かった。



 その後、皆で夕食だ。ミレットの料理を皆で食べる。


「お、おいしいのです。おいしいのです」

 ステラは感激していた。

 ちなみに、ステラはもうケモ耳と尻尾を隠してはいない。


「おかわりもありますからねー」

「ありがとうなのです」


 ステラは夕食前まで少ししょんぼりしていた。

 だが美味しいご飯を食べて元気になったようだ。


 夕食後、俺はステラに尋ねる。


「ステラは、どうしたいんだ?」

「それは師匠の下に弟子入りして強く有用な魔導士に……」

「俺の師匠や、ステラの父上の魔法とは俺の魔法はだいぶ違うぞ?」

「それでも、私は強さを求めたいのです」

「なるほどなぁ」


 俺はどうして強くなりたいのかなどとは聞かない。

 魔導士たるもの、強い魔導士になりたいのは当たり前のことだ。


「別に師匠の魔法体系を引き継ぎたいとかそういうのではないのか?」

「……私の中では強く、有用な魔導士になりたいのが第一なのです」

「そうか」

「ですが、そう言ってしまえば、断られると思い……魔導士の常識を振りかざしてしまったのです」


 そして、ステラは椅子から降りて土下座する。

 尻尾がしなしなだ。


「大変失礼なことをしてしまいました。申し訳ないのです」

「土下座などしなくてもいい」


 そういって、俺はステラを立たせて椅子に座らせた。


「師を欺こうとしたのです。そのような無礼を働いた以上、弟子入りを断られても仕方がないのです……」

「いや、気にしてないぞ。強くなりたいなら弟子入りを認めよう」

「えっ?」


 ステラがきょとんとした。獣耳がさかんにぴくぴくしている。


「よ、よいのですか? 嘘をついたのに」

「嘘はよくないことだがな。師匠には恩義がある。その孫の姪弟子が強くなりたいというのなら、弟子入りぐらい構わないぞ」

「あ、ありがとうございます!」


 ステラはまた頭を下げた。それをみてヴィヴィが言う。


「最初から弟子入り認めてあげればよかったのじゃ」

「俺が断ったのは、師の魔法体系の正当なる継承者じゃないという自覚があるからだぞ」

「そうなのです?」

「もし、ステラが師の魔法体系を継承し発展させたいのなら力になれない。そう思った」


 一連の流れを興味深そうに見ていたクルスが言う。


「正直が一番ってことですね! ところで、ぼくも強くなりたいんですけど!」

「そうか」

「だからアルさんの弟子になります」

「いや、クルスは弟子入りしなくていいだろ」

「えー」

「えーじゃなくて」


 クルスは充分強いので、そちら方面では教えることがない。

 学ぶべきは常識などだ。


「アルラの新しい弟子よ」

 ティミショアラがステラに向けて言う。

 真面目な表情だ。


「は、はい」

「アルラの弟子で無ければ見逃すのだがな。ラというのは我らにとって特別の意味を持つのだ」

「はい」


 ステラはきょとんとしている。

 何の話だろう。そう思っていそうだ。


「そなたは、ラの名乗りをやめるべきである。そう我は思う」

「で、ですが……」


 ステラは困ったような表情で、俺を見る。


「ティミ。気持ちはわかるが……。ステラという名は生まれつきの名前だからな。名乗るのをやめろとは言えまい」

「ふむう。人族ではそう考えるのか。だが、そうなると呼びにくいな」


 ティミは真剣な表情だ。どうしてもラをつけて呼びたくはないらしい。

 それほどラというのは大きな意味を持つのだろう。


「ステ……すてぞう、すうちゃん……」

「テ、ティミショアラさん。そういうことであれば、私はこれから魔導士としての名前としてステフを名乗るのです」

「魔導士としての名前とな?」


 古い習慣である。昔は弟子入りと同時に名前を変えるのが普通だった。

 魔導士の世界が俗世からかけ離れていたころの話だ。

 当時は、家を出るという意味で、弟子入りが出家と呼ばれていたという。


「ステラは、それでいいのか?」

「はい。心機一転なのです」

「それならそれでいいけど」


 そんなステフに向けて、ティミが言う。


「ふむ。ステフ。アルラの弟子よ。これからよろしく頼むぞ。我は古代竜の子爵シギショアラである」

「りゃっりゃー」

「そして、こっちが我が姪にして、主君。大公シギショアラである」

「りゃあ」

「た、大公殿下なのですね」

「うむ。シギショアラは偉いのだぞ」


 それからティミはステフの頭を撫でた。


「そなたもアルラの弟子なのだ。我も教えられることがあれば教えてやろうぞ」

「ありがとうございます!」

 ステフはとても感動していた。


 それから俺はステフを部屋に案内した。

 衛兵小屋は広いので、部屋も余っているのだ。


「今日はゆっくりすればいいぞ。まあ、明日からも適当に暇なときに教える程度だがな」

「ありがとうございます!」


 ステフは元気に返事した。


「じゃあ、俺は風呂に入って寝るから、また明日な」


 そして、俺はフェムに声をかけ、ティミの手からシギを受け取り風呂へと向かう。


「もっもー」

 モーフィがついてくる。


「モーフィはさっきお風呂入っただろう?」

「も!」

「また入るのか?」

「もぅ」

「仕方ないな」


 俺はモーフィとフェム、シギを連れてお風呂場に向かった。

 すると、脱衣所ではステフが待っていた。

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