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289 魔導士ギルドを利用しよう

 クルスは俺を信じ切った目で見つめてくる。

 だが、ルカは首をかしげた。


「で、アル。どんな考えがあるの?」

「冒険者ギルドも教会も交渉に難儀するなら、魔導士ギルドに頼めばいい」

「ふむ。それはありかもしれないわ」


 ルカが俺の意見に同意してくれた。

 ユリーナもうなずいている。


「精霊の研究するから領地通行、討伐の許可を求めるってことかしら」

「そういうことだ」

「問題は、その領主と魔導士ギルドの関係なのだわ」

「領主と魔導士ギルドの関係より、領主配下の魔導士がどう思うかの方が大きいだろう」


 俺がそういうと、クルスは真面目な顔で言う。


「ルカ、どうなの? 領主は魔導士雇っているの?」

「雇っているわね」


 領地持ちの貴族。つまり大貴族だ。

 そして冒険者嫌い。ならば魔導士ぐらい雇っているのは当然だ。


「そうなると、魔導士次第だねー」


 クルスは真面目な顔で腕を組む。

 魔導士がおおらかな性格なら、問題はない。

 だが、自分の管轄で他の魔導士が調査することをよく思わない魔導士だと面倒だ。


「とりあえず、魔導士ギルドの会員である俺が魔導士ギルドに行って、頼んでこよう」

「え? アルさん、正体明かすってことですか?」


 クルスが驚いて声を上げた。


「あっ」


 そういえば、そうだった。さすがに恥ずかしい。


「そうだな。クルスに頼むしかないな」

「任せてください!」


 クルスは嬉しそうに言う。

 ステフがおずおずといった感じで手を上げる。


「あの、私も会員なので……私が行くのです」

「それが一番いいかも! ぼくもついて行くね!」

「お願いするのです。クルスさんがついてきてくれたら心強いのですよ」

「一応俺もついて行こう」

「アルさんも一緒ですね!」


 クルスは嬉しそうだ。

 だが、ヴィヴィは眉をひそめた。そして、つぶやくように言う。


「アルが行ったら……。いや、いいのじゃ。アルも行った方がいいかもしれぬのじゃ」

「そうだな。たまには、恐怖を思い出させたほうがいいであろう」


 ティミショアラはうんうんと頷いている。


「我も行こうか? 脅すのは得意であるからな」

「……いや、大丈夫だぞ」

「そうか。必要ならいつでも言うのだぞ」


 ティミには、ついて来てもらわなくても大丈夫だろう。

 いや、むしろついて来ないほうがいい。

 ティミが魔導士ギルドの魔導士、特に会長を脅したら困る。

 ティミは迫力があるので、しゃれにならない。


 シギショアラが胸を張る。


「りゃっりゃ!」

「シギは一緒に行こうな」

「りゃあ」


 シギは当然だといわんばかりに、羽をバタバタさせている。


「もっもぅ」

「モーフィは……留守番がいいかな」

「もっ?」


 モーフィはショックを受けていた。

 そんなモーフィをフェムが慰めている。


『フェムに任せて安心してお留守番しているのだぞ』

「ももぅ」

「モーフィは目立つからな。ちなみにフェムも留守番だぞ」

「わふぅ?」


 フェムがびくっとした。


『なぜだ?』

「目立つからな。魔導士ギルドの魔導士が怯えすぎても困るし」

『それならアルが留守番すればいいのだ!』

「いやいや、俺は魔導士ギルドの会員だからな」

『会員はステフがいるのだ。アルは正体ばらせないから会員とか関係ないのだ』

「それは……そうだが……」


 ぐうの音も出ない。


『王都にはフェムとモーフィとクルスとステフで行ってくるのだ』

「もふぅもふぅ!」

 モーフィの鼻息が荒い。


「いやでも……」

『アルはお留守番していればいいのだ!』

「わかった……。俺はフェムとモーフィと一緒に留守番しよう」

「わふ! わふわふわふ!」

「ちょ、フェムやめなさい」


 フェムは俺の背中の方から乗りかかってくる。

 そして、わふわふ言いながら、耳を舐めてきた。

 抗議しているのだろう。


「もっも! もっも!」


 モーフィは俺のお腹辺りに額をこすりつけてくる。


「今度連れて行ってやるから、我慢しなさい」

「もー」


 魔導士ギルドを利用するというのは俺の発案だ。

 責任をもって、交渉したかったが仕方がない。

 それにクルスも最近はしっかりしている。俺がついて行かなくても大丈夫だろう。


「アルさんと一緒に行けないのは残念ですけどー。ステフちゃんと頑張りますねー」

「頑張るのです!」


 クルスとステフはやる気の様だった。



 次の日の朝。朝ご飯を食べると、クルスとステフはすぐに王都に向けて出発した。

 俺はいつものように衛兵業務だ。フェムとモーフィは俺のそばで寝っ転がっている。

 朝から、フェムたちが勝手に王都に行かないよう見張るのは大変だった。


 シギは俺の懐から顔だけ出す。

「りゃあ?」

「シギ、寒いか?」

「りゃっりゃ」


 シギの機嫌はよいようだ。シギの吐く息が白い。

 俺はそんなシギの頭を優しく撫でた。



 昼前にクルスとステフが村へと戻ってくる。


「クルス、ステフ、おかえり。どうだった?」

「師匠。ただいま帰ったのです」

「アルさん、ただいまです! 許可取れましたよー」

「……随分と早いな」

「はい! いまからティミちゃんにお願いして、飛んで行きましょう!」


 クルスは、やる気満々のようだった。

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