みんなで許可証をじっくり眺めていると、ミレットとコレットがやってきた。
「クルスちゃんもステフちゃんもおかえりなさい。ずいぶんと早かったんですね」
「くるすねーちゃん、ステフねーちゃん、おかえりー」
フェムを撫でているクルスの隣にコレットはぴょんと座る。
そしてコレットもフェムを撫でまわしはじめた。
一方、ミレットは俺の近くに立っていた。
フェムは片目でミレットを見るとさりげなく場所を開ける。
大きなフェムは俺とクルスの太ももの上に横たわっているのだ。
「フェムちゃんありがとう」
ミレットはクルスとは逆側の俺の隣にちょこんと座る。大きい長椅子でよかった。
ミレット、俺、クルス、コレットが座っても、長椅子にはまだ余裕がある。
ミレットが座ると、フェムは後ろ足をミレットの太ももの上にのせた。
ミレットはフェムを撫でながら尋ねる。
「クルスちゃん、魔導士ギルドとのお話し合いはどうだったの?」
「それがうまくいったんだよー」
そしてクルスは先程俺たちにした説明を再度する。
クルスの説明の間、ヴィヴィはずっと許可証を睨むように見つめていた。
クルスの説明が終わると、許可証をミレットに渡しながらヴィヴィが尋ねる。
「これが本物だとして、なぜこんなに早く侯爵家は許可を出したのじゃ?」
「もしかしたら、侯爵家もジャック・フロストに困っていたんじゃないかしら?」
ミレットがそういうと、クルスは首を振る。
「それはないかなー?」
「どうしてそう思うのじゃ?」
「侯爵って王都在住だからね」
「王都に居なければ、いくら何でもここまで早く許可証はとれないというのは、わらわにもわかるのじゃ」
貴族は大概王都にいるものだ。
夏は避暑地として自領に滞在することもあるが、冬は王都にいる。
侯爵ほどの大貴族ともなれば、国の役職を担っていることも多い。
そうでなくとも、政治が重要だ。王都に滞在するのは基本である。
そして侯爵の筆頭魔導士も侯爵とともに王都にいてもおかしくない。
「侯爵が王都にいる以上、領地の雪害が報告されるのには時間がかかるし」
「なるほど」
「それに、王都に居れば、どのくらい困っているかもわかりにくいからね!」
「そういうものかも知れぬのじゃ」
俺はクルスに尋ねる。
「つまり、領民は困っていたとしても侯爵は困っていないってことだな?」
「そういうことです」
「そうなると、余計わからないな。どうしてそんなに早く許可が下りたんだ?」
「それは、魔導士ギルドの会長が動いたからですよ」
「ほほう?」
「会長が侯爵の筆頭魔導士に口を利いてくれたらしいですよ」
「それだけで、そんなに短時間で許可がおりたのか?」
「やっぱり会長は魔導士に対する影響力がすごいみたいですねー」
「あの爺さんがのう。人は見かけによらぬものじゃなぁ」
ヴィヴィがしみじみと言った。
情けないイメージが染みついているが、会長は魔導士ギルドのトップだ。
エリート魔導士たちにとって、就職先を色々世話してくれる人でもある。
師弟関係の門閥などもあるのだろう。
侯爵家の筆頭魔導士なら、引退後ギルドの要職につける可能性もある。
それもこれも、ギルドのお偉いさんの覚えのめでたさ次第だ。
会長からの必死のお願いは、筆頭魔導士にとっても必死の願いになるだろう。
「ルカとユリーナには許可が取れたって連絡しておいたので、そろそろ帰ってくるかも!」
「抜かりがないな」
「えへへ」
照れたクルスは、フェムをしきりにわしわししていた。
昼食の時間になって、ルカとユリーナ、ティミショアラが帰ってきた。
ルカもユリーナも仕事を切り上げて駆け付けてくれたようだ。
「で、どうしてそんなに早く許可が出たの?」
「気になるのだわ」
「うむ。謎であるな」
クルスは改めて、ルカとユリーナ、ティミに経緯を説明した。
「なるほどのう」
ティミはうんうんと頷いている。
ルカとユリーナも納得したようだった。
「ああいうやつに限って政治力は高かったりするのよね」
「まったくもって、アルが脅してくれたおかげで便利になったのだわ」
そんなことを言う。
会長が俺を怖いと勘違いしたおかげで、便利になったのならよかった。
少し複雑な気がしなくもないが。
ティミが準備運動でもするかのように、腕をぐるぐる回す。
「では、早速参ろうぞ」
「そうだね! 誰が行きますか? ぼくと、アルさんだけでもいいですけど」
「せっかく、仕事を切り上げたのだから、あたしも行くわよ」
「私も行くのだわ」
「じゃあ、ルカとユリーナもだね」
そのとき、モーフィがクルスに鼻を押し付けに行く。
「もっも!」
「モーフィも行きたいの?」
「もうも!」
「モーフィが行くのならわらわも行くのじゃ」
「じゃあ、モーフィとヴィヴィちゃんも行こうね。フェムは行きたい?」
『行くのだ』
「じゃあ、フェムも行こうねー」
結構な大所帯になりそうだ。
全員に向けてルカが言う。
「一応、吹雪いているはずだから、防寒対策はしっかりするのよ」
「わかったー」
それから、てきぱきと身支度を整える。
出発の前、コレットが言う。
「おっしゃん、がんばってね!」
「おう。コレットありがとう」
コレットの頭をやさしく撫でた。
「気を付けてくださいね。これは非常食です」
「ミレット、ありがとう」
「師匠、ご武運をお祈りしているのです!」
「うん。夜までには帰れると思う」
弟子たちに見送られ、俺たちはティミにのって出発した。