一応治安の悪いエリアに行くのでトムとケィ、タントはお留守番だ。
トムは恐らく連れて行っても問題ないだろう。しっかりしているし、かなり大人だ。
だが、ケィとタントを連れていくのは少しためらわれた。
ヴィヴィが少し考えてから言う。
「子供たちだけで留守番させるのは不安なのじゃ。わらわが残ろうではないかや」
「やったー、してんのー遊んでくれるの?」
ケィが嬉しそうにヴィヴィに抱き着いた。
「む? まあ、遊んでやらぬこともないのじゃ!」
ヴィヴィが機嫌よく言う。タントも嬉しそうだ。
だが、トムは申し訳なさそうにする。
「心配してくれるのはありがたいけど、おいらたちだけで大丈夫だよ?」
「まあ、一応念のためにな」
恐らくトムの宿屋に手を出す愚か者はいないだろう。
それぐらい狼商会の名は売っておいた。
だが、代官が赴任し治安が完全に回復するまでは油断できない。
「ヴィヴィ、留守番を頼む」
「わかっておるのじゃ。気楽に待っているとするのじゃ」
そう言ったヴィヴィの腕にしがみついたままケィが言う。
「してんのー。まほうじんおしえてー」
「魔法陣かや? 難しいから無理だと思うのじゃ」
「えー」
「仕方ないのじゃ。代わりに簡単な魔法を教えてやるのじゃ」
ケィは魔法に興味があるようだ。
タントもケィの隣で目を輝かせている。魔法へのあこがれがあるのだろう。
俺とクルス、フェム、モーフィ、そしてシギショアラと一緒にトムの宿屋を出た。
クルスは相変わらず獅子の被り物をかぶっている。
その上、今日のクルスはモーフィの背中に乗っている。とても目立つ。
「ふんふーん」
「もぅ、もっもー」
クルスとモーフィはご機嫌だ。それをエルケーの人々は少し怯え気味に見つめていた。
モーフィは可愛いので怯えさせる要素がない。やはり獅子の被り物が怖いのだろう。
しばらく歩いて、治安の悪いエリアについた。
「ひっ」
歩いていたチンピラがクルスを見て息をのむ。
「あの、ちょっと……」
クルスはにこやかに語りかけた。
だが、チンピラは気付かないふりをして、足早に走り去っていった。
「聞こえなかったのかな?」
「もぉ?」
「モーフィ、追いかけよっか?」
クルスが追いかけようとする。一応止めたほうがいいだろう。
過剰に怯えさせてもあまりよくない。
「まあ、クルス待ちなさい。聞こえたけど、忙しかったのかもしれないぞ」
「確かに、アルさんの言う通りかもですね。トイレを我慢してたのかな。そんな顔してたし」
「……そうだな」
さらに少し歩くと、遠くにダミアンの姿が見えた。
ちなみにクルスはダミアンとは面識がない。
「あっ」
俺たちに気付いてダミアンは慌てて走り去ろうとする。
「フェム頼む」
『任せるのだ!』
フェムが矢のような速さで駆けだした。すぐにダミアンに追いつく。
ダミアンの背中の服を咥えて足を止めさせる。特に転ばそうとはしていない。
だが、慌てすぎたせいで、ダミアンは勝手に転んだ。
「がう」
「なにも! なにも! 悪いことしないから、ほんとにしてないから!」
怯えたダミアンが手足をバタバタさせている。
俺たちもすぐに追いつく。
「ダミアン、久しぶりだな」
「へ、へい。今日は何の御用で? あ、誓って最近は悪いことしてませんよ!」
「じゃあ、なんで逃げたんだ?」
「獅子が怖くて……つい」
「なるほど」
気持ちはわからなくもない。
怯えるダミアンにクルスが顔を近づけて言う。
「君がトムいじめで有名なダミアンだね。顔は覚えた! これからよろしくね!」
クルスは露骨に脅している。トムをいじめたということに腹が立っていたのだろう。
「ひぃ、ごめんなさい、ごめんなさい」
「怯えなくていいよ—。トムをいじめたりとか、悪いことしなければ特に何もしないよー」
「はい、二度といたしませんから!」
俺は怯えるダミアンの肩に手を乗せる。
「ダミアン。この辺りに来たのは、聞きたいことがあってだな」
「へ、へい! な、何でも聞いてください」
「この辺りに孤児が住んでたりするのか?」
「へ? 住んでると思いますが、俺は特に何もしてませんよ?」
それを聞いてクルスがにこやかに言う。
「それはなによりだよ。悪いことしてたら、ただじゃすまなかったよー」
明白な脅しだ。ダミアンは顔を引きつらせた。
怯えるダミアンに俺は優しく尋ねる。
「で、孤児たちがどのあたりに住んでるとか知らないか?」
「俺も完全に知っているわけではないんですが……」
そう言いつつもダミアンは色々教えてくれた。
最近、孤児たちが残飯を集めている場所や寝床などだ。
「そうか。今度孤児にあったら、優しくしてやれ」
「へ、へい! 肝に銘じます」
「もし孤児たちを見かけたら、お菓子をあげるからトムの宿屋に来るように伝えてくれ」
「わ、わかりました」
「子分たちにも、しっかり言い含めておけよ?」
ダミアンは何度もうなずいた。
これで、もし俺たちが孤児を見つけられなかったとしても大丈夫だ。
ダミアンやその子分たちが伝言してくれるはずだ。
それから俺たちはダミアンから教えてもらった場所へと向かった。