俺たちが次に向かったのは、孤児たちが寝床にしているという空き家だ。
空き家を眺めながらクルスが言う。
「思ったより古くてボロボロですねー。他にもっとましな空き家もあるのに」
「目立たないように気を使っているんだろうさ」
「子供はそんな気を使わなくていいのに……」
空き家でも、立派な空き家は管理されているのだろう。
勝手に入り込めば、追い出されてしまうに違いない。
もしかしたら、既に追い出された結果、このボロ家に来た可能性もある。
「フェム、中にいそうかな?」
『空き家の中から音がするから、きっといるのだ』
「そうか、ありがとう。モーフィ、クルス。裏口に回ってくれ。逃げられたら面倒だ」
「了解です!」
「もっも!」
クルスを乗せたまま、モーフィは裏に向けて走っていった。
それから俺は空き家に正面から近づく。
フェムも威圧しないように尻尾を振りながらついてくる。
「こんにちはー。誰かいるかい?」
なるべく明るい声で呼びかけた。同時に俺は聴覚強化の魔法を使う。
中から声が聞こえてくる。
「だ、誰か来たよ。誰かな?」
「この家に入りこんでるの怒られるのかな?」
「捕まらないうちにこっそり裏から逃げようよ」
「だめだよ。謝らないとだめだよ」
そして、そおっと扉が開いた。ぼろぼろの服を着た子供がこちらをうかがう。
トムぐらいの年齢に見える子供だ。
俺は威圧感を与えないように微笑んだ。それでも子供は謝ってくる。
「あの、ごめんなさい」
「いやいや、怒っているわけじゃないんだ。俺たちは狼商会っていうんだけど」
「狼商会?」
出てきたトムと同じ年ぐらい、つまり十歳くらいの子供が一番年長なのだろう。
その後ろには、四歳から六歳ぐらいの子供たちがいた。
先頭の子供の後ろから、六歳ぐらいの子供が顔を出す。
「あ、ぼく知ってる。狼を連れた獅子の人のお店でしょ?」
警戒心のかけらもないいい笑顔だった。
「そのとおり。その狼商会だよ」
俺は微笑んで丁寧に対応する。
だが、年長の子供は顔を出した子供を自分の背に隠すようにする。
そして、俺を疑念のこもった目で睨むようにみつめてきた。
「あの狼商会が、ぼくたちになんの用ですか?」
「少しお手伝いを頼みたいことがあるんだ」
「お手伝い?」
「えっとな……」
俺は簡単にお手伝い内容を説明する。ミリアの新店舗やそのほかの簡単な雑用などだ。
お手伝いをしてもらわなくてもいいのだが、そう言っても信用しないだろう。
だから、あえて仕事を与えることにした。
「ちゃんとご飯や、泊まる場所も用意してある」
「それはありがたいけど……」
「なにか問題があるのか?」
「おれはお手伝いできるけど、こいつらはまだちびだから……」
「あーなるほど」
幼少組が労働力としてあまり役立てないことを心配しているのだ。
「おれがこいつらの分も働くからさ、なんとか一緒にお願いできないかな?」
「もちろん、最初からそのつもりだ」
俺がそういうと年長の子供は顔を輝かせた。
「じゃあ、おれたちはおじさんについて行く!」
「それは助かる」
話し合いで解決できてよかった。
クルスに逃げられないよう裏口に移動してもらっていたが、必要なかった。
「フェム」
「わふ」
フェムがクルスを呼びに走る。
それを見て子供たちは「おっきいいぬ!」と嬉しそうに言っていた。
すぐにフェムはクルスとモーフィを連れて戻ってくる。
「みんな、こんにちはー。狼商会の獅子仮面だよー」
「もっも!」
「わー。獅子仮面だー」「すげー」「うしさんだー」
「もうもう!」
たちまちクルスとモーフィは子供たちに囲まれる。
モーフィも子供たちに体を撫でられて、ご機嫌に鳴いていた。
やはり獅子仮面は子供たちに大人気らしい。
一方、フェムは子供たちに集まってもらえなかったせいか、少し寂しそうにしていた。
だから、代わりに俺がいっぱい撫でてやった。
それから、子供たちを連れてトムの宿屋へと向かう。
幼少組は楽しそうにモーフィの背に乗っていた。
道中、俺は年長の子供に言う。
「一度ムルグ村に来てもらって、服を着替えてもらおう」
「着替えるって言っても、おれたち服なんて持ってないぞ」
「服ぐらい余っているのがあるから安心しろ」
トムの宿屋に行って、孤児たち五人とタントを一緒にムルグ村へと連れていく。
ヴィヴィやユリーナ、ルカとクルスに協力してもらい、全員をお風呂に入れる。
どぶくさい臭いをとって、いい匂いにさせてから、きちんとした服を着せていく。
そのころにはミリアが戻ってきた。ミリアは孤児たちに言う。
「みなさんにはお仕事を手伝ってもらいますよー」
「がんばります!」
「いいお返事ですね! 難しくはないので大丈夫です、安心してください」
それから三日ほど、孤児たちにはトムの宿屋で過ごしてもらった。
その間、ステフが子供たちに文字の読み書きや簡単な計算を教えてくれた。
一方、ヴィヴィはミリアの購入した新店舗に魔法陣を描きまくっていた。