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437 休息 その2

 俺たちは順番に睡眠をとることにする。


「最初は俺と……もう一人頼む」

「私が……」「私も……」

「ベルダとエクスは眠ってくれ」


 冒険初心者のベルダ、エクス、それにヴィヴィには見張りを任せるわけには行かない。

 俺とルカ、クルスとユリーナのペアで寝ることになった。


 最初に俺とルカが寝ないで番に入る。

 ティミショアラは眠る必要があまりないので一緒に番をしてくれることになった。


「フェム、モーフィ、チェルノボクもしっかり寝なさい」

「わふぅ」「も」「ぴぎ」


 フェムは俺のすぐ横で伏せをして眠り始めた。

 眠ると言っても浅い眠りだ。警戒している。

 何かあったとき、すぐに俺を乗せて動けるよう隣にいてくれているのだ。


 モーフィはヴィヴィを乗せたまま、ベルダとエクスに寄り添って眠っている。

 モーフィは心優しいので冒険初心者たちを気遣っているのだろう。

 モーフィが近くにいるだけで心癒される。そのうえあったかいので体も冷えない。

 いいことづくめなのだ。


 チェルノボクはクルスに抱きつかれた状態で眠っていた。

 チェルノボクもあったかいので、体温維持にちょうどいい。

 そしてユリーナはクルスに後ろから抱き着いている。


 ちなみに俺の魔法の鞄には、当然のように厚めの毛布が入っている。

 かけるためというより、敷くための毛布だ。

 石の上に寝ると、体温を一気に持っていかれてしまう。

 それを防ぐための毛布だ。


 人間だけでなく、獣もみんな毛布の上で眠っている。

 フェムとモーフィには毛皮があるが、やはり毛布の上の方がいいのは俺たちと一緒だ。


 そして、俺も毛布を敷いて、寝ている者たちのすぐ近く通路の真ん中に腰を下ろす。

 起きているルカとティミも、毛布を敷いて俺の近くに座っている。


「ふう。流石に疲れたな」

 俺は少し痛みを感じる左ひざを撫でながら言う。

 チェルノボクに呪いを解いてもらったといっても、まだ鈍く痛いのだ。

 今日は長い間歩いたので、余計痛い。


 俺の様子を見ながら、ルカが言う。


「思っていたより難しいダンジョンよね」

「ああ。これほど殺意の高いダンジョンは初めてかもしれない」

「アルラでも初めてなのであるか?」

 ティミが驚いている。


「初めてだ。強い敵にはいくらでもあったことはあるが……。ダンジョン自体の殺意は最高だ」

「そうね、私もそう思うわ」

「ルカもなのか。ほう。ベテラン冒険者二人が初めてというほど珍しいダンジョンなのだな」

「ああ、ティミは運がいいな」

「うむ!」


 機嫌よくティミは干し肉にかぶりついた。

 ティミには毎日の食事すら必須ではない。

 古代竜が飢え死にするまでには年単位の時間がかかる。

 食糧を節約しなければならないのならば、ティミには我慢してもらうところだ。

 だが、俺もクルスも、ルカもユリーナも、みな魔法の鞄を持っている。

 そしてその中にはかなりの量の食糧が入っているため不足していないのだ。


 俺とルカも軽食を食べる。

 俺たちが食べるのはパンと肉だ。

 昔は干し肉ばかり食べていたが、いまは状態不変効果のある魔法の鞄がある。

 冒険中でも、柔らかいパンや温かい肉なども食べられるのだ。


 ルカが、ティミに柔らかい白パンを勧めながらつぶやいた。


不死者の王ノーライフ・キングって、このダンジョンを突破する気だったのよね?」

「そう言っていたな。魔人と組んで突破するつもりだったのだろうな」

「……アルラは不死者の王と魔人がこのダンジョンに挑んでいたら、突破できたと思う?」

「それは我も気になるな」


 ルカとティミが興味津々といったていで、こっちを見る。


「そうだなー。恐らくだが、難しい気がするな」


 両者とも罠解除が得意だとは思えない。

 一つの罠では仕留められないだろうが、罠の数は大量だ。

 徐々に魔力と体力を削られることになるだろう。

 それに毒罠もある。不死者の王には毒は効かないが魔人には効くはずだ。


「魔法耐性の高いゴーレムや物理耐性の高いゴーレムが両方いたからな」

「途中で力尽きそうってこと?」

「恐らく、そうなったと俺は思う」

「そっかー。封印を守るという意味ではこれ以上ないものかもしれないわね」


 不死者の王だけなら、もしかしたら突破できるかもしれない。

 だが、不死者の王が突破を強行すれば、確実にベルダは死ぬだろう。


 不死者の王が言うには、ベルダ、つまり王族が封印の鍵だと言う。

 もし「封印の鍵」が死んで消失してしまえば、不死者の王も撤退せざるをえまい。

 もしかしたら、そこまで考えての作られたダンジョンなのかもしれない。


 そんなことを俺はルカとティミに説明した。


「なるほどー。つまり王族を守りつつ、これまでの罠や魔物を突破しろということね」

「それぐらいできないと封印されている者には勝てないということかもしれぬなー」

「ティミの言う通りかもしれないわね」


 そんなことを話しながら、見張りを続けた。

 その後、起きて来たクルスとユリーナと交代して、俺とルカは眠りについた。

 俺はフェムに抱きついて眠ることにする。

 フェムはモフモフで暖かい。

 固い石の上だがフェムが居ればそれなりに気持ちよく眠ることが出来る。

 そして、ルカはチェルノボクに抱きついて眠っていた。


「アルラさん、ゆっくり眠ってくださいねー」


 そう言いながら、クルスはご飯を食べ始めた。

 クルスとユリーナ、ティミに任せれば安心だ。


「クルス。ユリーナ。ティミ。頼んだ」

「任せてください」

「安心して眠ればいいのだわ」

「ゆっくり寝るとよい」


 そして、俺は眠りについた。

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