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第11話 部室へ凸!

 男保会とはどういう存在なのか。


 活動ビラによれば、女性主権社会の男性に対する権力の不均衡を解決するために社会に訴えかける組織なのだという。


 素晴らしい。社会に対して疑問を訴えかける看板を掲げる優等生の組織である。


 では、その実態を見ていこう。


 女子が部室に駆け込んでくる。その手には月刊のファッション雑誌が握られていた。



「これ! 今月のM-patch読んだ!? もうやばすぎ、まじで。ハーフパンツとソックスの合わせがたまらん」

「ちょっとフェミニンっぽい感じも好きなんだけど結局ラフ感出してきてるのがいいっていうかさあ」

「今月の特集は『春の甘え男子コーデ』って。その言葉だけで既に破壊力やばかった」

「そこの部分なら! 私はナイトガウン着てるこの子が……やばい。涼しげな表情と裏腹に底に含まれてそうなMっぽさがたまんない」



 理想のシチュエーションを求めて日々繰り返される妄想談義とストーカー気質なその性格から繰り出される、数少ない男性有名人SNSの監視。


 活動は不定期ではあるものの、思い思いに集まり好きに議論という名の活動に耽溺する。


 それを遂行することが彼女らの矜持である。



「一年生ちゃんは誰か推しとかいたりするの!?」

「え、私は……」

「恥ずかしがらなくていいよ。そんなの。みんな同じなんだから」

「実は私、インフルエンサーの人の、この男の人がめっちゃ好きなんですけど……」

「え! 確か……ねえー! 部長! この人のこと好きって前言ってましたよね」



 この同好会に入った一年生の未来というのはほぼ二つである。


 大層な題目とはかけ離れたその活動内容のギャップに着いていけずにやめていってしまうか、上級生のノリに取り入れられて自身もそのコミュニティを盛り上げるようになっていくか。


 言ってしまえば、去るか堕ちるか。それが男保会の実態であり、堕ちた者は皆一様に蠱毒のごとくその沼が濃縮されていき。


 結果としてモンスター的な妄想処女が生まれるのだ。決してピュアな乙女とは言えないような。



 春。複数人の入会希望の一年生が今年も見学に来ている。その面々に先輩たちは光るものを探し出しながら、新人の歓迎を行う。


〜〜〜〜〜


 そんな一幕。が起きたのは突然だった。


「た、大変、かも」


 新しく入ってきた一年生が声を上げた。その子は先輩から見ても大人しいタイプで、会に慣れるのは少し時間がかかりそうだ、そんな評価を先輩間で共有されていた女子だった。


「どうしたの?」

「え、えっと、その……実はお姉ちゃんからメッセージで――」


「ここが男保会の部室で合ってます?」


 その女子が何か言葉を発そうとした瞬間。教室内にいた女子の視線は全て、一点に集められた。


 ドアの開く音と同時に聞こえた低く太い、声変わりを終えた男の声。自分達に向かって発せられることなどない、そんな愛しさも感じられる声が部屋に響き渡った。


「ちょ……は!? 男子!? 待って、何が起こってんの!?」


 突如パニックに陥る女子たち。自分が顔を出すだけでこんなパニック具合になるとは思っていなかった祐希。各人が何もできずに立ちすくむ。


「って、あれ? どこかで見たことあると思ったら……ギルちゃんだ」

「久しぶり、です」


 祐希の呼びかけに少し恥ずかしそうに応じるドワーフのギルドラ。彼女も男保会の一員だ。


「えっと、実は、あの時春川くんと話した後――」

「やっぱり!! もしかして噂の新入生くん!?」

「挨拶ってやつですか、もしかしてもしかして!!!」


「う、うん。まあ」


 ギルの話も遮られ、堰を切ったように女子たちが駆け寄ってきて自分のことを囲む。一定数、祐希の方に近づいてこない者もいたが。


「私どうなるかなんて知らないからね」


 後ろからはホルティスが面白いものを見る顔で見学の体制だ。





「みんにゃ、迷惑だから一旦離れるんだにゃ」





 凛とした透き通った声が教室の中に浸透するように広がっていく。澄んだ声をしているな、と祐希はまず思った。


 そして、その声に従って女生徒がしぶしぶと祐希の元から離れていく。


「まじか」


 祐希から思わず声が漏れ出た。今聞こえた声の主の、その見た目にだ。


 まず目がついたのはその美しい銀髪だった。スッと伸びた髪に似合うスレンダーな体型と、端正な顔立ち。それだけなら祐希も驚くことはしなかった。


 単に、可愛い人だな。それくらいで終わったはずだった。


「うちのメンバーが突然質問攻めにしてごめんにゃ。イスを持って来たから座って欲しいにゃ」


 その口調と、頭の上に二つ付いている銀色の毛に覆われた桃色の耳。それに臀部のあたりから出ている尻尾には可愛いカバーを履かせている。


 ワーキャット猫耳族だ。


「さすが。副部長ってやっぱり男の人の前でも動じないんだ……」

「それってどういうこと?」


 やっぱり、という言葉に引っかかって質問をぶつける。確かに、この目の前の副部長は飄々とした雰囲気にホルティスっぽさを感じる。


 すると、一人の部員が飛び出してきた。

「副部長こと、ファルミラ・ダスクストライド先輩は人気ファッション雑誌『dot』で専属モデルを務める、私たちの憧れなんです!」


 なるほど、人気モデルというわけだ。それなら仕事で男モデルとも関わる機会が多そうだし、男慣れしているのかと祐希は納得する。


「なるほどね、モデルさんだからこんなに可愛いんだ」

「――」

「ん?」


 ファルミラの用意してくれた椅子に腰掛けてそんなことを呟くと、ヒューッと何か音がした気がした。


 視界の端に写るのは固まったファルミラ。耳と尻尾がピンと上を向いたまま倒れていった。


「副部長が悩殺された!!」

「に、にゃぁ……」

「副部長の夢が……イケメンに可愛さを面と向かって褒められるっていう夢が!」


 後方から誰ぞのドワーフの笑うようなため息が聞こえた。


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