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第12話 少女漫画のような

 祐希の言葉にくらくらと衝撃を受けたファルミラが起き上がって、こほんと咳払いをする。


 「失礼したにゃ。改めて二年生のファルミラ・ダスクストライド。ここの副部長をしてるにゃ」


 にゃ、にゃ、にゃ。明らかにリアルで聞いたことのない語尾に戸惑いながらも、その理由は彼女の頭上にある耳が声高に主張している。


「やっぱりワーキャットって『にゃあ』って言うんですね」

「にゃにぃ? 当たり前のこと言ってるにゃ。この口調はワーキャットの誇りだからにゃ」

「へー、そういう感じなんですね」



 にゃあにゃあと語尾につけて話している姿にはやはり違和がある。元の世界だとこんなに可愛い女子がこのように喋っている姿なんて、アニメか罰ゲームか何かの企画くらいでしか見れないものだ。


 そこを祐希が「可愛い」だなんて言ったらファルミラが再び倒れそうなので黙っておく。先ほどのは本当に口をついて出て来てしまった言葉なのだ。


「今日は部長がいないからにゃ。私が対応するにゃ。にゃんの用?」

「ああ、そういえばそんな話だった」



 祐希がここに来た目的は決して目の前にいる猫耳を拝むためではない。


「聞いたところによると、男保会って俺に手を出さないようにアナウンス出してるんですよね?」

「そうにゃ。男の人は私たちのことを苦手な人が多いからにゃ。男性の保護は私たちの活動だからにゃあ」

「それをやめて欲しいって、お願いしに来たんです」


 ファルミラの顔にハテナマークが浮かんでいるのがよく分かる。祐希は構わず話を続けていく。


「要は、俺は別に女子のことを怖がったり苦手がったりしないから。それでよそよそしく接されたくない。遠巻きで噂される方が俺にとっては嫌なんです」


 この選択でいいのだろうか、と思うが祐希は言い切った。


「じゃ、じゃあ……女性っていうのはってよく言うにゃ、それについてはどう思ってるんだにゃ?」

「それを聞いたのももう三回目くらい。そりゃ、人としての礼儀をちゃんとしてくれれば……やぶさかじゃないですよ」


 最初は困惑していたが、この世界も大概良いもんだ。恋愛の主導権を自分がほぼ握れているという確信を祐希は持っていた。


 祐希自身も女性経験は前世通してゼロに等しい。だから、女子との関わりを維持するために男保会のリミッター解除は必要だと判断した。


 祐希の言葉に対してファルミラが椅子から立ち上がりながら「ふおおお……」と、奇妙な声を出し始める。


「リアル版『恋ハナ』じゃにゃいか!?」

「恋……え?」

「ふひ、ごめんにゃ、私仕事で男の人と会うことはたくさんあるけどそんなことを言う人は初めてだにゃ……」


 恋ハナとは「する準備、彼が園の中心で」という少女漫画のタイトルらしいと、祐希は知るのだが。


?」

「そうです! 副部長は往年の古典名作から最新の流行作、果てはマイナープラットフォームのWeb漫画まで、ありとあらゆる少女漫画を収集してる少女漫画オタクなんです!」

「なるほど?」


 再び祐希の発言に食らっていたファルミラはひとしきりブツブツと独り言を言った後に祐希へ迫ってくる。


 恋ハナというのもそのような理想的な男子がヒロインの漫画なのだろう。


「こんな男子! 漫画でしかいないと思ってたにゃ!! 本当に実在してるかにゃ? ドッキリかにゃ? ドッキリだったら許さないにゃ、監禁コースにゃ」


 少々物騒な発言が聞こえたが祐希も嘘は言っていないので堂々とする。


「私は別に自己主張をするつもりはにゃい。理想男子が恋知らぬ乙女に恋のイロハを教え、教え込まれて、ひひひ。されるがままの嬌声を隣の部屋から聞かせて貰えばにゃ」


 ファルミラにも祐希は大概の変人――もとい変猫――の匂いを感じ取り始めていた。思っていたよりもヤバいやつに話を通してしまったかもしれない。


「と、とりあえず要件は把握してもらえました?」


 苦笑しながら話を結論に持っていこうとする。ファルミラはこくりと頷いて祐希を見つめてくる。


「じゃあ、とりあえず男保会のみんにゃと連絡先交換してくれにゃ」


 そう言われて祐希は自分を囲む、15人ほどの視線を一身に受けていることを自覚した。そしてそれに祐希も頷き返したのだ。



『連絡先追加ありがとうございます!! ぜひお話ししたいんですが明日の昼ご一緒しませんか?』

『趣味ってなんですか?』

『男の人なのに女子に抵抗感ないのってなんでですか?』

『https://~~~~~~~ 恋ハナも読んでみると良いにゃ。きっと素晴らしい学園生活が待っているにゃ』


 携帯を見返すとすでにメッセージの嵐が待ち構えている。


 そういえばだが祐希は一つ分かった事があった。この世界は嗜虐的方向に性的な興味が向いている者が多い。そのことに祐希が気づいたのは少しネットサーフィンをしてみたからだ。


 消極的な男子に対して積極的に導いてあげる女子の図というのはこの世界の女子全員に浸透し切った概念らしく、それを考えると先ほどのファルミラの発言も、デートの時の奏音の態度も、他にも多くの発言に合点がいく。




「さて、本丸はここだな」


 男保会にて多くの歓待を受けた祐希はホルとギルとも別れ、ある一つの部屋の前にやって来ていた。


 掲示板を見たときに気になった部活動名が二つあった。


 一つは先ほどまでお邪魔していた男性保護同好会。もう一つは――


「……ん? あれ、男性ですか。珍しい。いや、失礼しました。ようこそ、へ」


 祐希を出迎えたのは噂に聞くエンジェル天使族だった。

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