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第18話 ヴァンパイアに血を吸われよう! その1

 祐希は教室に残っている、奏音に声をかけた。ちょうど今、イリナに交渉をされていたところだったのだ。


「ちょっと今からイリナに血吸われるから、監視してくれない? 前に吸われた時襲われそうになったからさ」

「は……は?」


 奏音は絶句していた。いや、自分のブルーな気持ちを一瞬でぶち壊されたことにも少々言いたいことはあるが。それはそれとして、先の発言の内容である。



「祐希さ、イリナさんと仲良いのは知ってたけど……血吸わせたの?」

「吸わせた、というか……吸われた? いや、でも許可はしてたから……吸わせたって言った方がいいのか」


 ヴァンパイアに血を吸われた者はその吸われた量に応じて体が痺れ動けなくなる。別に後遺症はないと考えられているが、他人の動きを数分間でも強制的に拘束できる吸血という行為。その意味は大きい。


「あのねぇ、危機感ないの!? マジで!」

「ちょっと、なんで突然キレてるんだよ」


 困惑する祐希も完全に無視して矢継ぎ早に言葉を紡いでいく。


「ヴァンパイアにとって、吸血っていうのは食事っていうのはもちろんそうなんだけど……その、好きな人の血を飲んだり、特に男の人の血を飲むっていうのはめちゃくちゃ……エロいの!」

「……でもコンビニとかにも売ってるって言ってたじゃん」

「だってそりゃ飲まないと死ぬからね!」

「俺ら別にエロいことしなくても死んだりしないじゃん」

「ヴァンパイアはヒューマンじゃないじゃん! そりゃ種族も違えばそこのバランスも変わるよ!」


 日々の食事という意味合いでの吸血に官能的な意図は含まれない。しかし、それが愛する者同士や男性相手になった場合、その意味合いは一気に繁殖といったニュアンスを強める。


「っていうか、委員長……祐希のこと襲ったの?」

「ひっ……! ごめんなさい! だって『吸血したら動けなくなる』なんてこと知らないはずがないと思ってぇ……」

「知らなかったの!?」

「知らなかった!」


 正確に言えば前世の記憶が戻ったことで色々と記憶が混同し消えている知識がある、といった方が正しいのだがそんなことを言えるはずもなく。


「祐希も男子校で何を学んできたの?」

「麻雀とか?」

「なんか割とやってることが女々しいね」


 適当に言ったのだが、どうやら麻雀も女子校の専売特許となってしまったらしい。



「……ともかく、吸血した後にイリナが変なことしないかどうか見ててほしい」

「一応聞いておくんだけど、もしイリナさんが変なことし始めたら本当に止めていいんだよね?」

「そうだけど、俺ってそんな露出と誘い受け属性のダブルコンボみたいな性癖してるように見える?」



 手順は前やった時と同じだから、祐希はもうお手のものだ。まず立ったままだと痺れで転倒してしまうので、床にそのまま座る。椅子でも何かの拍子で転んだら危ない。そしたら皮膚を噛むために制服をはだけさせて――



「やっぱり今回も肩の方がいいの? 肩の方が美味いとか言ってなかったっけ」

「あ、それ嘘です。普通に首の方が美味しいです。前は、その、少しでも早く痺れを回らせるために少しでも胴体に近い部分にしたっていうか……別に、肩も好きですよ」


「めちゃくちゃ嫌なこと聞いた……あれ? じゃあ、俺今日制服着崩す必要なくね?」

「いや、そのままでいて」


 祐希とイリナとやりとりをしているところで奏音からツッコミが入る。


「じゃあ、吸うから」


 それと同時にイリナの鋭い歯が首の血管の直接入っていく。その感覚に不思議なものを感じながら。


「やば……マジで飲んでる……」


 そんな奏音の声が聞こえてくる。


「……ぷはぁ。春川くんの味がする」

「祐希の味って?」


 イリナの言葉に素早く奏音が反応した。その肉感的な言葉遣いが気になった。


「なんていうのかな……まずそもそも健康的な人間だっていう雑味のなさは前提としてあるんだよね。それに男性的な部分っていうのかな。どこか奔放で、鋭くて……」


 祐希はそれを聞きながら真顔で奏音とイリナのことを見ていた。自分が痺れで転がっている最中、自分の血液の味についての食リポが行われているのである。


「前の件もあったから、正直頼むのも躊躇してたけど……これは間違いなく再飲の価値あり……へへっ、勇気出して頼んでよかった……」



 そのイリナの様子を見て奏音がごくりと唾を飲む。いや、決して自分は血液を飲むような習慣はないのだが。


「ちょっと、飲んでみたい、かも」

「うぇ!?」


 その奏音の、意外すぎる発言に驚きの声を上げたのは祐希だ。イリナはそれに対して顔を輝かせる。異文化交流というか、なんというか。


「ヒューマン同士だし大量に飲むものでもなさそうだから……私の噛んだところから垂れてるやつを舐めてみたら?」

「……え、イリナさんがどうにか、こう、分けてくれる的な感じじゃなくて?」

「だってそんなに大量に飲まないでしょ。多分たくさん飲んだら立川さんが気持ち悪くなっちゃうよ」


 他人の血液を飲むことに対するリスクというのは当然存在する。まず第一に思い浮かぶのは感染症か。エイズ、というのは血液を媒介して他人に感染する病気だ。医学的には問題のある行為ではあるが――


「いや、でも、ちょっと……私、さすがにそれは……」


 祐希の首を舐める、とかいうとんでもない背徳プレイをしてしまおうとすることに、奏音は間違いなく抵抗があった。しかもイリナという他者の目もある中だ。


「……ま、それもそうか。ヒューマンからしたら血の味の違いはわからないしね」


 その奏音の様子を見てあっけらかんにそう言うイリナ。奏音の吸血チャレンジは一旦お預けらしい。


「お、動けるようになってきた」


 そんなことを言っている間に祐希が起きてきた。二人の前にほぼ上裸の男が立ち上がって、向かい合ってくることになる。


「やば……」

「ね! これやばくない!? めちゃくちゃエロいんだって!!」


 そう盛り上がる二人に祐希は苦笑した。


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