「私の名前はミャフィ・フェリナ! このチャーミングな耳と尻尾でわかると思うけど、ワーキャットにゃ。そしてこの学校の生徒会長にゃ! よろしく〜にゃ!」
にゃっと、敵を猫のように――というかワーキャットだから猫であることは当然だが――手を丸めて胸の前へと持っていく。妙にその姿が可愛い。なんか、アイドルみたいな仕草だ。
彼女を見た時に外見的に一番目立つのは、その青く輝く瞳だ。ぱっちりとした目鼻立ちはもちろんだが、宝石のように輝く碧眼は彼女のチャームポイントの一つだ。
さらに、流れるような銀髪はそのまま肩より上の部分でバッサリと切られており、彼女自身が動くたびにふわりと浮き上がる。
テオも大概に綺麗な出立ちであるが、テオがその場を支配的にして「自分の場」にしているとしたらミャフィは周りを取り込んで自分のステージにしているみたいな。そんな雰囲気の違いがある。
「……あ! 私は立川奏音って言います!」
「入会希望かにゃ〜? 新一年生の入会希望者がどっちもヒューマンなのは、縁を感じるにゃね」
「新入生! 喜ばしいですね」
どうやら生徒会の現メンバーに、祐希以外のヒューマンはいないようだった。奏音を見て楽しそうにテオもどこかへ、書類を用意しに行った。
「生徒会の仕事としては、各行事の運営が主な仕事ではあるにゃね。生徒総会を開いたり〜とかの仕事もあるにゃけど、イベントが近くない時は基本的にこの部屋でだべってるにゃね」
「結構自由なんですね」
もちろん、忙しい時は忙しいのだろうが。そう言いがらミャフィが先ほど買ってきたお菓子袋を取り出しつつ、「食べにゃね」とパーティー開けされたものを勧めてくる。
それを有難くつまみながら話は進行していく。
「もちろん。校風が自由にゃのにその長たる生徒会が自由じゃにゃいというのはおかしいにゃ。私も、こう見えて他の部活の部長を兼任してるにゃね」
「え!? そんなことできるんですか!?」
「まあ、文化部だからにゃ。ゆるいにゃ」
そう言いながらミャフィは飄々と菓子を頬張る。それを聞いた祐希は、つい一週間前だかに出会ったワーキャットの雰囲気に、ミャフィを空目した。そのまさかだ。
「ま、さかですけど……その部活って?」
祐希が声に震えを出しながら、問う。その答えがどうなるのかを察しながら。
「この際だから言うけど、男性保護同好会にゃ。そこの部長も兼任してるにゃね〜。春川くんが男の人だからちょっと気まずくて。いつ言おうかなあって思ってたんにゃけども」
「男性保護って……あの?」
奏音もその驚愕に続く。
「俺、えっと……副部長の……ファルミラさんだ、あの人からしょっちゅうおすすめ少女漫画語りのメッセージ来ますよ」
「そうにゃ! だから私も春川くんのことは前々から聞いてたにゃ」
「そうだったんすね……」
生徒会長が部長として兼任している部活。なるほど、明らかに情報戦に長けている雰囲気が漂っているのも頷ける。男保会が異様な権力を保持してる理由を祐希は察した。
「ファルミラは恋ハナ信者で、かつ少女漫画オタクにゃ〜。なんというか、オタクだからそういう一方通行型のコミュニケーションを好むにゃ」
「今、めっちゃあらゆる方向を敵に回すタイプの偏見にまみれた悪口言いましたか?」
恋ハナ――恋する準備、彼が花園の中心で――とはどうやら、この世界で一部のマニアによってカルト的な人気を得ている恋愛漫画らしいと祐希は調べて知った。別に読んだわけではないが。
「恋ハナってなんか聞いたことがあるような……」
「お? 興味あるにゃか? この部屋に全巻揃えてるから読んでみるといいにゃ! 少々癖はあるけど意外とハマるかもにゃよ〜」
どうやら会長自身も恋ハナのファンではあるらしい。祐希も気づいていなかったが、探してみると部屋の隅っこに全巻セット(全16巻)があるのに気づいた。
「よ、読んでみようかな……」
奏音がそう呟いているのが聞こえた。やっぱり女子というからには、少女漫画好きなのは変わらないんだなあなんて。そう祐希が思ったところでテオがどこかから帰ってきた。
「書類持ってきました! これ、渡しとくのでもし入会希望なら次来たときに書いて持ってきてくださいね」
「あ、ああ、はい」
奏音はそれに応じながらも、ミャフィはファルミラについての話を続ける。
「あんまり悪く思わないでくれにゃ。ちょっとしつこいけど、悪い子じゃないのも伝わるにゃよ?」
「まあ、そうですね。それはもちろん」
「それにファルミラは、モデルの仕事もやってるにゃからね。やっぱりああいう、表現者的なタイプの奴は自分の世界があるにゃ」
確かに、そんな感じがするとは祐希も思った。この部屋に、ファルミラが表紙になっている雑誌の過去ナンバーが堂々と置かれている。この学校の中でも、学校を代表する有名人みたいな扱いになっているのだろう。
〜〜〜〜〜
その後、奏音が生徒会見学を終え祐希も帰ることになったので二人で一緒に帰ることになった。二人にとって、一緒の下校は凛を交えたあの時以来だ。祐希の心持ちとしては少々気まずい。
「ねえ、ちょっと寄らない?」
塗装が剥がれている滑り台に錆びた鎖に繋がれたブランコ。そう言って奏音が指差したのは古びた公園だった。