ギルドラと一緒にご飯でも食べようということで店に入った。学生らしい、といえばらしい、格安ファミレス。入店するやいなや、周りからの視線が少し痛い。
これは今日一日中そうだったのだが、祐希が通ると周りが皆、一瞬見てくる。別に声をかけてくるわけでもないのだが。でも彼女ら通行人の顔が自分の方に向けられることに、祐希はやはり、なんとなくの違和感を拭えない。
「じゃあ、とりあえず……お疲れさま、ですっ」
かんっ、と気持ち良い音を立ててお互いのグラスの端が合わさる。祐希は冷たい烏龍茶を。ギルドラはその泡と小麦色のフォルムが特徴的な――
「なんでギルちゃん酒飲んでんの!?」
ギルドラがぐいっと喉に運んだのはその蠱惑的な姿の発泡酒だ。もちろんだが到底高校生が飲んで良い代物ではない。
「え、だって……ドワーフはちっちゃい頃から飲むので……?」
「そ、そうなの?」
祐希の困惑に逆に困惑する形で、ギルドラはまた一口酒を飲む。その姿に衝撃を受けた。
「ごめん、俺あんまりこれまでドワーフの友達とかいなくて」
「友達……」
何か、祐希の言葉が少しギルドラに刺さった様子だったがそれは一旦お構いなしに。なぜドワーフが酒を飲めるのかという理由がポツポツと語られる。
「ドワーフはちっちゃい頃からお酒を飲むんです。それはお父さんお母さんが飲んでるからだし、それが出来ることがドワーフとしての証の一つというか……」
「でも、健康面とか大丈夫なの? こう……」
元の世界の学校で教えられたものだが、酒を未成年が飲むことは発達上での重要な問題を引き起こす。祐希の脳内で、ギルドラやホルティスのちっこい身長がそれと結びつけられる。
「問題ないです……稀に飲まない個体もいますが、私たちとなんら変わりないんです。それに、私がこうやって飲めるのは……ヒューマンのおかげなんですよ」
「ぷはぁ」と、肉と共に口の中に放っていく姿を見せながら、ギルドラはそう言い放つ。祐希は彼女の言い方がとても気になった。
「ヒューマンのおかげって?」
「私たち種族が文明を築いて混じり始めた頃……まさに今やってるようなドワーフの子供の飲酒が問題になったんです。でもヒューマンが、ドワーフは生後直後からアルコールを問題なく処理できることを解明して……」
それでドワーフの飲酒は種族的なアイデンティティだとして世界中で広く認められているらしい。
ドワーフがヒューマンのことを「歴史上重要な関係を持っている」と形容していた理由が腹落ちする。
ギルドラにネットの、「ドワーフがアルコールに耐性がある機序」みたいな記事を見せてもらう。高活性のADH-Dα型酵素がなんとかだとか、酵素のKm値が低い、NAD⁺供給強化が……高校で生物すらまだやっていない祐希には何も分からなかったが。
「まあ、ともかくそんなとこ……ですっ。お酒はドワーフの象徴の一つ――誇りですからね」
一息ついてまたギルドラが一口のむ。何か、飲むペースが早い気がするのは、彼女が緊張しているからだろうか。
「ギルちゃんとこうやって面と向かって長い時間話したの、これが初めてかも」
「確かに……そうですね」
ギルドラと祐希が初めて出会ったのは校門の前であったが、その次に会ったのは男保会の部室であった。
ホルティスとはよく一緒にいるが、ギルドラとこうやって面と向かって話すことは無かった気もする。
「ギルちゃんって、結構寡黙だった印象だけど、結構喋るよね。話してて楽しい」
「ほんとですかっ」
寡黙、というかホルティスの活発な性格も相まってギルドラは接すると静かな印象を覚える。しかし実際話して顔を突き合わせてみると案外そうでもない。
祐希からそういう言葉が出たからか、ギルドラも心なしか嬉しそうだ。
「そういえば、ギルちゃんって男保会いたよね?」
「あ、そうです……お恥ずかしながら……」
別に何か言おうというわけでもないのだが、頭の裏を照れてれと掻きながらギルドラが畏まる。
「なんとなく、私も少し興味が湧いて……先輩たちが楽しいですよ」
「ミャフィ先輩がいるでしょ」
「そうです! 楽しいワーキャットさんですよねっ」
ミャフィは生徒会長かつ男保会会長という異色の経歴持ちだが、彼女の存在はやはりどちらの組織にとっても大きいものらしい。
それから一時間ほど、お互い色々と喋り、楽しい時間を過ごした。ギルドラは思っていたよりよく喋るドワーフであると、祐希も分かったし、お互いのことを知れた気がする。
もちろん奏音へのプレゼントも無事に買えたし、祐希にとってとても有意義な日になった。
あとは中間テストの存在が発覚したが……それはまた後で考えることだ。
〜〜〜〜〜
「春川くん〜ねぇ、もう帰っちゃうの? えへへ……」
「いや、ドワーフって相場、酒に強いんじゃねえの!?」
ファミレスを出る頃には、ギルドラは頬を赤らめて祐希にくっつかんばかりに酔いの色を隠せずにいた。