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第175話

 何故、生徒として学ぶはずの自分が教壇に立っているのだろうとルシアナは疑問に思った。

 まぁ、ポーションを作るだけならいつものことだ。

 お手本だし、中級ポーションを作ることにした。


「ハイヒール」


 魔力液に回復魔法をかける。

 回復魔法が魔力液に吸い込まれていき、徐々にその色が変わっていく。

 魔石がないから魔力の収束がいつもより悪い。

 魔法の範囲を狭める。

 魔力を収束する。

 もっと……もっと……魔力を一滴たりとも無駄にしないように。

 そして――


「完成しました」


 私がそう言うと、生徒たちが拍手をした。

 ジーニアスが号泣している。

 ただ、ロレッタの様子がおかしい。


「ロレッタさん? 終わりましたよ?」

「……シア様? それ、中級ポーションですよね?」

「はい、中級ポーションです」

「通常、魔石がなくてもできるのは最下級ポーションですよ? 魔石無しで下級ポーションができた前例は何度かありますが、中級ポーションができたなど聞いたことがありません」

「え? いえ、最下級ポーションができるのは魔力の大半が漏れてしまうからで、魔力を収束し外部に漏れないようにすれば下級ポーションができます……よね?」


 ルシアナはそう言って感涙で顔を歪ませるジーニアスを見る。

 彼は頷き、


「ええ、私が所有する文献にも中級ポーションができたという前例は記されていません。ですが、師匠ですから中級ポーションくらい作れて当たり前です!」


 と宣言した。

 どうやらルシアナはまたやってしまったらしい。


「ハイヒールは威力が高いため、収束は困難です。薬学の講義の参加者は全員多かれ少なかれ聖属性の魔力の持ち主だと伺っています。まずは何も考えず、魔力を魔力液に込めるところから始めましょう。シア様のように凄い成果を出そうとせずに自分のペースでお願いしますね。まだ回復魔法が使えない人も、魔力を流すだけでいいですよ」


 どうやら、ルシアナはポーション作りとしては一流の成果を出せたが、手本としては失敗だったようだ。

 ルシアナももう一度魔力を込める。

 今度はヒールを掛ける。

 魔力の収束は先ほどよりも楽だ。

 下級ポーションが完成した。


 他の人の様子を見る。

 皆、苦労しているようだ。

 聖属性を持っているといっても、他の属性を持っている生徒がほとんどだ。

 当然、魔力を流すだけでは聖属性以外の魔力も流され、魔法薬としては使い物にならないものばかりだ。

 特に聖属性以外の属性が多いジーニアスが作った魔法薬は黒く濁っている。

 全員薬を作り終えた後、失敗した原因――特に魔石の作用について座学が行われた。

 そして、講義の後――


「シア様、少し相談があります」


 ロレッタがルシアナに声をかけてきた。

 アリアが「私は先に行ってるね」と言って次の講義に向かう。


「どうしたんですか?」

「次の講義の内容です。例年だと、今回の失敗を踏まえて魔石を作ったポーション作りをするのですが、毎回挫折する生徒が多く、何かモチベーションを保ついい方法がないかと」

「はぁ……まぁ、ポーション作りって結構難しいですからね」


 ルシアナが言うと嫌味にしか聞こえないかもしれないが、前世で新しく入ってきた修道女の中でもポーション作りに苦戦する人は多かった。

 かくいうルシアナ自身も苦労したものだ。

 そう言う時、モチベーションになるのは――


「……お金を稼ぐのはどうでしょう?」

「お金ですか?」

「はい。薬を作って貴族に売ってお金にするんです」

「貴族にですか? しかし、シア様の作った薬ならわかりますが、他の生徒が作っても商品になるとは。それに、貴族は自分でポーションを買ったりしませんよ?」

「それなら問題ありません! 貴族に売れる、そして普通のポーションより簡単に作れる魔法薬がありますから」


 何しろ、ルシアナが前世のファインロード修道院での修道女時代に金策のために作っていた薬だ。

 売れるに決まっている。

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