古羊の盗まれたパッドを捜索し始めて、3日目の放課後。
俺たちは学校近くの雑木林の中に居た。
「あった! あったわよ、2人とも!」
「よかったね」
「メイちゃん……」
茂みに顔を突っ込んで「ひゃっほーい!」と狂喜乱舞する亜麻色の髪の美少女を、何とも言えない気持ちで眺める、俺とよこたん。
時刻は午後6時手前。
俺たちは古羊の盗まれたパッドが眠る場所で、彼女のパッドを取り戻しに来ていた。
「まさか、ししょーのGPS作戦がこんなに上手くいくなんて……。やったね!」
「……確かに俺は『パッドの中にGPSでも仕込むか?』とは言ったけどさ? マジで仕込むかヤツがあるか? 普通?」
「メイちゃんは普通じゃないから……」
いまだに「おかえり、我が子たちよっ!」と狂喜している姉を、生暖かい目で見守る妹。
実の妹にこんなセリフを吐かれるアイツって、一体……?
「何をしてるの2人とも! はやくこっちに来なさい!」
布製のパッド片手に、狂ったように喜び続ける現役女子校生。
これは現実か?
俺とよこたんは、苦笑を浮かべながら古羊に近寄り、茂みの中を確認した。
そこには、古羊のパッドだけではなく、手編みのマフラーや手袋、はては女物の下着が多数無造作に置かれていた。
「はぁ~、随分と色んなものがあるなぁ……。おっ、黒のスケスケパンティー発見! 誰のだ、これ?」
「し、ししょーは見ちゃダメ!」
よこたんに目を塞がれる。
ぷにっ♪ とした感触が妙に気持ち良かった。
「なにはともあれ、無事に古羊のパッドも見つけたし、そろそろ
「そ、そうだね。それじゃ帰ろっかメイちゃん」
「……まだよ、まだ終わってないわ」
はぁ? と、よこたんと2人して古羊を見る。
そこにはさっきまで喜んでいた女はおらず、代わりに復讐に燃えるアヴェンジャーが居た。
「アタシ、言ったはずよ? 『パッドを取り戻したうえで、パッドを盗んだ犯人を血祭りにあげたい』って」
「……やっぱり何度聞いても、狂った発言だよなぁ」
「えっ? め、メイちゃんまさか……」
よこたんの顔が、一瞬で強ばった。
俺は何となくこうなるんじゃないかという気はあったので、そこまで驚きはしていない。
古羊は茂みの中で無造作に置かれている下着類を指さし、
「犯人は盗んだ物をこの場所で保管している。つまり、ここに再び犯人が現れる可能性が高いということ! ということは――」
「ここを張り込んでいれば犯人を逮捕できる、てか?」
「その通りよ! 今からここに張り込んで、必ず犯人を捕まえるわよ!」
「だ、ダメだよ!? そんなの危なすぎるよ!」
断固反対っ! と言わんばかりに、姉の制服の裾を握る妹。
確かに、よこたんの言う通りである。
もうすでに辺りは薄暗くなり始めているし、何よりついこの間、謎の女たちに襲われたばかりだ。
もしかしたら、また変な奴に襲われるかもしれない。
だが古羊のことだ。また無理やり協力させるんだろうな。
なんて思っていたら、
「……そうね、確かに危険すぎるわよね」
と殊勝なことを言ってビックリしてしまった。
ど、どうしたんだ古羊? と
「女の子が夜中にこんな場所にいちゃ、襲われても文句は言えないわよね。……それでも、アタシは真犯人を捕まえたい。捕まえて、血祭りにあげたいの」
「澄んだ瞳でゲスいこと言うなぁ」
思わず感心してしまった。
有言実行とは見上げた根性だ。
が、もちろんそんな言葉で納得する妹ちゃんではない。
「だ、ダメだよメイちゃん! もう暗くなるし今日は帰ろう? また明日から張り込めばいいでしょ?」
「……洋子は先に帰りなさい。アンタを危ない目に遭わせるわけにはいかないわ」
「メイちゃんっ!」
「大丈夫よ、アタシは1人じゃないわ」
だって、と古羊は言った。
「だって大神くんも一緒に見張るんだもの」
「えっ、俺も?」
これまたいつの間にか『犯人捜索隊』の一員に組み込まれていた。
どうやら俺の1日はまだ終わらないらしい……。