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第20話 修羅場ですか? いいえ、王様ゲームです

「さて、場も温まってきたことだし! ここらで一発……王様ゲームッ!」

「「「「「イエェェェェェェェェイ」」」」」




 生徒会の面々(廉太郎先輩)を除くメンバーが、雄叫びをあげながら片手を天に突きたてる。


 だが会場のボルテージが上がっていく一方で、俺の心はどんどん冷え切っていた。


 なぜなら。




「ほらっ、大神くん。ここの計算式が間違っていますよ?」

「あっ、ししょー、ししょー。ここの答えも間違っているよ?」

「……はい、はい、すみません」




 場の空気をガン無視して、現在進行形でテスト勉強に専念させられているから。


 古羊姉妹よる鉄壁の布陣により、誰も俺に声をかけてくれない。


 それどころか『空気が読めない変な奴』として、腫物はれもの扱いされている始末だ。


 ちょっ、やめてぇ!?


 そんな可哀そうな子を見る目で、俺を見ないで!?




「ほらほらっ! そこの3人も、勉強ばっかしてないでさ! せっかくなんだし、みんなで遊ぼうよ!」

「そ、そうですよね! 廉太郎先輩の言う通りだ、少しだけ休憩しようぜ!?」

「ダメですよ。大神くんの学力で、休む暇があると思っているんですか?」

「赤点を回避して学年順位100位に入りたいって言ったのは、ししょーの方だよね?」




 う~ん、こりゃ説得はMU☆RI♪


 ウチの鬼コーチたちは、手を緩める気が一切ないっすわ♪


 というか、さっきから男どもの『古羊姉妹を独占すんな!』オーラが激し過ぎて、胃に穴があきそうなんですけど?


 何コレ?


 罰ゲームか何かですか?




「まぁまぁ2人とも! シロちゃんも、もう軽く2時間は勉強し続けているし、少しくらい息抜きした方が勉強の効率も上がると思うよ?」

「むぅ……。確かにちょっと効率が落ちてきたのも否めないですし……。では、この王様ゲームだけ参加しましょうか」

「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」




 廉太郎先輩、ナイスアシストです! と心の中で何度もお礼の言葉を口にする。


 それと同時に双子姫も参加するとあって「おぉっ!」と歓喜の声をあげる男連中。


 1回だ、俺はこの1回のチャンスに全てをかける!




「はいっ。それじゃルール説明をねこちゃん、お願い!」




「……なんであたしが」とブツクサ文句を言いつつも、机の下から10本の割りばしを収納している空のアルミ缶を取り出した。




「……ここに1から9までの番号を書いた数字と『王様』と書かれたクジがある。この王様のクジを引いた人は、他の番号の人に命令することができる」




 例えば1番が9番にデコピンをするとか、4番がなにか面白い話をするとか。


 と、羽賀先輩はいつもように淡々と説明していく。


 そして最後に廉太郎先輩のことを嗜虐的しぎゃくてきな笑みで見つめながら、こう締めた。





「……そして王様の命令は」

「「「「「「「ぜったァァァァァいっ!」」」」」」」




 俺は内心ほくそ笑んでいた。


 そうこのゲーム、王様の命令は絶対。


 それは即ち……どんなエロいお願いをしようが、断ることが出来ないちょくめいに他ならないのだ!


 具体的に何をお願いするの? と問われれば、さすがの俺も言いよどんでしまうが、とりあえず今まで夢想してきたプレイは一通りチャレンジする所存しょぞんだ。




「わたし、この軽薄な大学生のようなノリ、嫌いかもしれません……」

「あ、あはは……」




 なぜか呆れている古羊姉妹を無視して、俺は机の上に置かれたクジへと手を飛ばす。


 それに続いて、廉太郎先輩、キョンキョン先輩、ゆかりん先輩がまるで街灯に群がる羽虫のようにワラワラとクジを引いていく。


 そして最後に双子姫がクジを引き終え、いよいよ準備完了。




「みんな引いたかな? それじゃ行くよ……せーのっ!」

「「「「「「「「「王様だ~れだ?」」」」」」」」」




 こいっ、王様!


 俺をハーレム王にしてくれ!


 精一杯の祈りと願いをこめてクジを確認する。


 ……9番だった。




「あっ! ウチが王様だっ! やったぁ!」




 キョンキョン先輩が嬉しそうにそう告げた途端、男どもから盛大なため息が漏れた。


 わかる、わかるぞ、その気持ち。


 自分が王様になって、あわよくばエロいお願いがしたかったんだよな? 俺もだ。


 男たちが瞬間、心、重ねている間に、キョンキョン先輩は「そうだなぁ」と王様のクジをピコピコ動かして。




「じゃあね~、9番が王様にお腹を触らせる!」

「よろしくお願いしまぁぁぁぁぁぁぁぁぁすっ!」




 俺は某『夏の戦い』の映画に出てくる主人公のようなことを叫びながら、間髪入れずに制服をめくりあげていた。




「ちょっ!? だ、ダメだよ、こんなの! エッチだよ!」

「洋子の言う通りです。女性が男性のお腹に触るなんて、不健全です」

「おいおい2人とも、忘れたのか? 王様の命令はぁ~?」

「「「「「「「ぜったい!」」」」」」」




 くぅぅぅっ!? と涙目を浮かべる爆乳わんと、若干笑顔を崩れてきている会長閣下。


 その悔しそうな顔を見て、ほんの少しだけ溜飲りゅういんが下がった。




「じゃあ触るね、シロウくん?」

「「……『シロウくん』ねぇ」」

「なんだよ?」

「「べっつにぃ~」」




 何か言いたげな2人を尻目に、俺は「撫でて、撫でて!」と警戒心ゼロのバカ犬のように、お腹を見せ続ける。


 キョンキョン先輩のひんやりとした指先が肌に触れた瞬間、そこだけ熱した鉄棒のように熱くなった。




「うわぁっ! かたぁ~い♪」




 妙にエロイ声を出すキョンキョン先輩。


 男どもが「いいなぁ……」と羨ましそうに俺を見ていた。




「カッチカチだぁ! 何かスポーツでもしてるの?」

「い、いえ! 家で筋トレする程度です!」

「えぇ~、なんか勿体なくない? こんないい筋肉してるのに」

「おっふ!? そ、そうですか?」




 俺の腹筋で『の』の字を書きながら、イタズラめいた笑みを浮かべるキョンキョン先輩。


 おいおい、これはもう確実に俺のことが好きなんじゃねぇの?


 いやむしろフォーリンラブじゃね?


 先輩にいつ「あなたと合体したい」「アク●リオォォォォン」と言われるか、ワクワク☆ドキドキしていると。



 ――グイッ!



 ラブリー☆マイエンジェルの身体が、強引に俺たちの間に割って入ってきた。




「も、もうお腹も触ったしいいでしょ? つ、次のゲームやろ? 次のゲームっ!」

「えぇ~? もうちょっと触ってたぁ~い」

「えぇ~? 俺ももうちょっと――なんでもないです、ハイ」




 俺ももうちょっと触られたぁ~い♪ と、軽口を叩こうとして……やめた。


 なんだかもう、よこたんの顔がいっぱいいっぱいといった感じで、今にも泣き出しそうだったから。


 流石にこんな場所で泣かれたら罪悪感が凄まじいし、何よりこの合コンがお流れになりかねない。


 まだ何もなし得ていないのに、そんなの許されるはずがない!




「よし! 第二回戦、いくよぉ!」

「「「「「「「「「王様だ~れだ?」」」」」」」」」




 キョンキョン先輩の音頭で王様ゲーム2回戦目がスタート。


 今度の王様は、




「きたっ! きたきたきた! 天内優の時代がキターッ!」




 王様のクジをジッチャンの形見のように大事に抱きかかえ、狂ったように喜ぶ天内先輩。




「僕の願いはただ1つ! 童貞卒――っ」

「……天内」

「じゃなくてぇ!」




 ギロッ! と羽賀先輩に睨まれて、気持ち悪い笑みを浮かべる天内先輩。


 なんだろう?


 俺この先輩、大好きかもしれない。




「6番! 6番が今この場でスクール水着に着替えること!」




 と中々に爵位しゃくいを有する変態発言を口にした。


 天内変態、もとい天内先輩は、バックから何故か持参してきた女性用スクール水着を机の上に放り投げる。


 瞬間、女性陣から純粋な悲鳴が飛び交った。




「ちょっ、天内!? ソレマジでありえないから! つーかキモいっ!? マジキモい!?」

「なんでそんなの持ってきてるし!? マジ無理、ほんと無理!」

「……純粋に気持ち悪い」

「うぅ……っ!? 天内先輩、ヘンタイさんだぁ……」

「こ、これは困ったことになりましたね……」

「ウルセェ! 王様の命令は絶対! いいから6番がこの水着に着替えるんだよ!」




 女性陣のブーンイングなぞ意にもかえさんとばかりに、強権を発動させ、意地でもスクール水着に着替えさせようとする天内先輩。


 どうしよう、俺やっぱり先輩のことが大好きかもしれない。


 周りを見渡すと男性陣が「よく言った天内!」と小さく拳を握り締め、俺と同じく喜びに打ち震えていた。


 この森実高校にはプールの授業は存在しない。


 ゆえにこそ、彼女たちのスクール水着姿はとうとく、儚いのだ。


 スクール水着と現役女子校生、それままさに生真面目爆乳女騎士と発情期のオーク並みに相性抜群に違いない。


 それが分かっているからこその、この命令……。


 天内先輩、あなたとは良いオレンジジュースが飲めそうだ。




「フハハハハハハハハハッ! ほら6番! 誰だ6番? はやく着替えなさい!」




 高笑いを浮かべる天内先輩。


 まったく、こんな衆人観衆の中、スクール水着に着替えなきゃならないなんて、6番が可哀そうでならないね。


 まあ、ただ。




「さぁっ! さぁさぁさぁっ! 6番は誰だぁ~?」

「……俺です」




 その可哀そうなヤツが、俺なんだけどね♪


 男たちの「ふざけんなカス!?」という視線が肌を刺す。


 ほんと申し訳ないと思っている……。




「さ、さすがにコレはやめとい――」

「何を言っているんですか大神くん?」

「そうだよ、ししょー。もう忘れちゃったの?」




 この地獄のような環境の中、さっきと打って変わってご機嫌な古羊姉妹が、打ち合わせでもしていたかのように、2人そろってニッコリ♪ と微笑んだ。




「「王様の命令はゼッタイ、でしょ?」」

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