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第12話

 王子たるギルバートにも勿論本物の替え玉が居る。ギルと言う名の。そこは嘘ではない。身代わりの身代わりをやるというのもおかしな事だが、それでロタに会えるのなら何も問題ない。


 小窓の向こうではロタもまた、ギルバートと同じように息をついていた。


 やはりロタに相談して良かった。


「ありがとうロタ。素晴らしい提案をしてくれて。これで王子の悩みが一つ減りそうだ」

「私も。ありがとう、ギル。姫様も飛び跳ねて喜ぶと思うわ」


 こうして、秘密の取り決めをした二人はいつものように挨拶をして別れ、お互いの国に帰って行く。  


 俄然舞踏会が楽しみになってきたギルバートは、城に戻るなり自室に引きこもり、いそいそとロタに送る贈り物のリストを作っていた。


【やはり手作りか。買った物だけでは味気ないからな。あとは、ここは少し奮発して宝石の一つでも……いや、気の無い男にそんな物を貰っても気味が悪いな。手作りと宝石は止めておこう。では花か。花なら嫌う女子は居ないだろう、多分】


 そこまで考えて、いや待てよ? と考え直す。


【花には虫や棘が、という可能性もあるな。いや、万が一花に蜂が隠れていてロタが刺されでもしたら一大事だ。花もダメだな。では何だ?】

「鳥か……【いや、生き物はないな。世話が大変だし、貰っても迷惑になるかもしれない。難しいな、贈り物は……】」


 その時、部屋の入り口でガシャン、と音がした。ふと視線を上げるとサイラスが顔面蒼白でこちらを見ている。


「サイラス【顔が真っ青だぞ? 大丈夫か? 気分が悪いのならもう上がってもいいんだぞ】」


 いつもサイラスと共に居るくせにサイラスの不調に気付かないなど、主失格である。


 ギルバートは贈り物リストを手帳に仕舞うと、サイラスに近寄った。


「気付いているか?【自分の不調に。体調を崩しては元も子もないからな。休みはしっかり取るんだぞ】」

「は、はい! 失礼します!」


 サイラスはそう言って寝る前の白湯を置いて物凄い勢いで部屋を飛び出して行ってしまう。


 相変わらずサイラスは慌ただしいな。まぁ、元気なのは良い事だ。


           ◇◇◇


 サイラスは急いで騎士団の団長が居る執務室に飛び込んだ。走りすぎて心臓がバクバクしている。


「ガルド!」

「サイラスか。どうした?」

「お、王子が……気付いているか? と!」


 サイラスの言葉に団長は眉を吊り上げる。どういう意味だ? そう問う前にサイラスが話だした。


「その前に、鳥か、と仰っていました……これは、敵の伝令方法ではないでしょうか!」


 意気込んだサイラスに団長は頷く。


「! なるほど、一理あるな。不思議だったんだ。どうやってあの崖まで誰にも気づかれずに侵入出来たのか。一人が様子見に森まで侵入。そしてこちらの警備と地形を見たうえで伝令をその場で放ったという事だな?」

「恐らく」


 その手段が王子は鳥ではないかという。


 開戦前は迂闊に国には入れなくなっている。商人であったとしても、厳重に調査される。その網をかいくぐれるのは透明な者か、あるいは羽のある者。透明な者はこの世には居ないが、羽のある者であれば、いくらでも居る。ギルバートはそこに目を付けたようだ。


「鳥か……。よし、今すぐ警備にあたらせる!」

「はい!」


            ◇◇◇

 何だか今日は城が賑やかだ。すっかり外は暗くなっているというのに、いつもよりも松明の明かりが多い気がする。何か森に忘れ物でもしたのか? 明るくなってから探せばいいものを。お化けが出たらどうするんだ。


【いや、皆はもしかしたらお化けなど怖くないのかもしれないな】


 何せギルバートはチキンハートだ。夜だって真っ暗では眠れない。万が一夜中にトイレにでも起きようものなら、と考えると戦争慄ものだ。だから必ず深夜の警備担当の者に言うのだ。


『深夜、僕の部屋から明かりが消えたら必ず点けなおすように』と。


 これで朝までぐっすり安心だ。本当はそんなものはただの甘えだと分かってはいるが、怖いものは仕方ない。


 ギルバートはベッドの上で今日のポエムをしっかりと心に刻んだ。


『出来ない事は、誰かに任せましょ! たまにはいいけど、全部はダメダメ!』


 これはまるでギルバートの為にあるようなポエムじゃないか。


【王子としてこれではいけない。普段からサイラスに頼りっぱなしなのだ。王子たるもの、少しでも出来る事は増やしていかないと……すー……すー……】


 キャンディハートさんのポエムは心に響きすぎて安眠効果が半端ない。


 うっかり考え事の最中に寝落ちたギルバートは、翌朝握りしめすぎてとうとう爆発してしまったトウモロコシ人形を片手に執務室に向かった。誰かに直してもらおうと考えたのだ。


 執務室には今日も既に山の様に書類が積み上げられている。この山を見ると安心するギルバートだ。

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