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第14話

 実際のところ、ギルバートがあげたい物とロタが欲しがっている物が違っては、結局は相手にとっては迷惑だと言うキャンディハートさんの教えに身につまされる。


【リサーチ力! 僕には圧倒的にリサーチ力が足りない! 何せコミュ障だから!】


 こんな事ならばもっと早くにロタが今何に困っているかを聞いておけば良かった!


「はっ!【そう言えば、家の薬草が傷んでいて大変な目に遭ったと言っていたな……】」


 ギルバートはすぐさまサイラスを執務室に呼びつけた。こんな事は珍しい。サイラスは慌てて執務室にやってきて、身構えている。


「薬草を多めに用意してくれ【すまないな、サイラス。超個人的な事を頼んでしまって】」

「薬草……ですか?」

「ああ。近々使う事になる。【ロタへのプレゼントにするんだ。頼んだぞ、サイラス】」

「……畏まりました」


 サイラスはそう言って頭を深々と下げて部屋を出て行く。音もなくドアを閉めるサイラスに感心しつつ、ギルバートはさらに贈り物についてのポエムを探してみる。


『乙女心はとっても複雑♡ 本当は欲しくても喜ばない時もあるから気をつけて。日用品は特に危険信号だゾ!』

「!」

【なんだと!? 一体どういう事だ。本当に欲しくても喜ばない!? 薬草はどうだ? あれは日用品か!?】 


 ギルバートは執務室の机の上に突っ伏して唸った。薬草を日常的に使うかどうかと言われたら、ギルバートは使わない。何せ危険な事はしない質なので、そもそも怪我をしない。


 しかしロタはどうだ? か弱い少女だ。風が吹きつけてきてもどこか切れたりするんじゃないのか? 女子はギルバートには未知すぎて全く分からない。そして既に薬草をサイラスに頼んでしまった。


【これはもう、イチかバチかで勝負するしかない!】


 いや、嘘だ。そんな賭けは出来ない。そんな度胸があればとっくに直接ロタに何が欲しいか聞いている。


【……やはり、贈り物は無難に花にしておこう、そうしよう】

           ◇◇◇


「王子から薬草を多めに用意してくれって頼まれたんですけど、近々注文しますか?」


 サイラスはギルバートのお使いを遂行すべく、医務室に足を運んだ。


「今のところは足りてますねぇ。それに薬草と言っても色々ありますが……」

「そうですよね。一体何に使う気なんでしょうか。もう一度詳しく聞いてきます」


 そう言ってサイラスは医務室からもう一度執務室に向かった。


 執務室では、ギルバートは仕事の真っ最中だった。仕事の邪魔をしないよう質問しようとしたサイラスの思考を、まるで読んだかのようにギルバートが顔も上げずに言う。


「花だ。取り分け赤い物がいい。【赤は情熱の証だからな。こう見えて僕は情熱的なんだとロタに伝えたい】」

「は、はい!」


 驚いた。どうしてサイラスの思考が分かるのだ。薬草で赤い花と言えば、あの花しかない。


 サイラスは急いで医務室に戻るとモンクに鼻息を荒くして言った。


「き、聞いてきました! トルカローだそうです!」

「トルカロー!? あんな毒花どうす…る…なるほど。そう言う事ですか。分かりました、手配しておきます」


 トルカローは真っ赤で大振りの花をつける事で有名だ。普通は薬草として用いられるが、分量用法を間違えれば猛毒にもなる。ギルバートはその花を大量に用意して、きっと侵入して来た敵に使うつもりなのだろう。


 数ある毒花の中でも、最も強力なトルカロー。あえてそれを使うのがギルバートの冷酷さを物語っている。


 全てを察したモンクとサイラス。お互い顔を見合わせた。


「また侵入してくる可能性がある、という事でしょうか」

「そうでしょうね。王子は無駄な事などしない方ですから」


 納得したように頷いた二人は、こうしてそれぞれの仕事に戻った。そしてその噂は、一夜にして城全体に知れ渡ったのだった。


            ◇◇◇


「ん?【今サイラスが来ていた気がするが、気のせいか】」


 贈り物は花に決めた。そしてギルバートはある事に気付いた。やはり贈り物と言うのは、自分で選んだ物の方が良いのではないか? という事に!


 今までサイラスに任せっぱなしで自分で選びに行くという事を一切しなかったギルバート。これでは心を込めた贈り物とは言えないのではないだろうか。


 思い立ったが吉日だ。ギルバートは外出用の衣装に身を包み、久しぶりに街へ降りる事に決めた。


「王子、あちらの通りは避けた方がよろしいかと」


 そう言ってサイラスが指さしたのは貧困街だ。サイラスの言葉に頷いたギルバートは通りを歩きながら花屋を探した。あちこちに花屋はあるが、どうにもロタに似合いそうな花が無い。


 キャンディハートさんの詩集によく花言葉が出て来るのでつい覚えてしまったのだが、ロタを現す花言葉は可憐だ。可憐と言えばマツボンの花などがいいのではないだろうか。一輪でも十分見応えはあるし、何なら一輪の方がカッコイイ感じがする。あくまでギルバートのイメージだが。


 しかしいくら探してもマツボンの花は見つからない。


「無いな【一体マツボンはどこに売っているんだ。まさか! 時期ではないとか、そういう事か!?】」


 ギルバートは仕方なく通りを一本奥に入った。サイラスが止めるのも聞かずに。


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