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第32話

 よし、それでいこう。キャンディハートさんは皆をビックリさせようと言っているし、うん、ギルと僕の秘密にしておこう。


 その後、すぐさまギルバートはギルを部屋に呼びつけた。


「はいよ~どうしました~?」


 軽いノリでやってきたギルバートとよく似た背格好のギルは、大変軽い。髪と目の色はギルバートと同じだが、中身は真逆かと思う程似ていない。


 しかし剣の腕前はピカイチだ。純粋に剣技という意味ではギルバートも勝てないかもしれない。


 いつもの調子でやってきたギルにギルバートは言った。


「ギル、頼みがある」

「なんすか?」

「次の戦争、お前が前衛のど真ん中に居てくれ」

「はぁ、そりゃ構いませんけど……あんた甲冑被んないからすぐバレますよ?」

「今回は被る。お前も被れ」

「はいは~い。で、他には?」

「ああ、髪は下ろしておいてくれ。ちゃんと甲冑を被っていても見えるようにな。【しかしコイツは相変わらず軽いな。少し羨ましいぞ、ギル】」

「りょーかい。で、俺を直接呼んだって事はぁ~?」

「もちろん、内緒だ」

「はいよ~。じゃ、そういう事で~」


 ヒラヒラと手を振って執務室を出て行ったギルを見送り、心なしか不安になるギルバート。いつもそうだ。彼に頼み事をすると不安しかないのだ。


 いや、ギルは失敗をした事などただの一度もない。一度も無いが、どうも不安になるのである。こういう時に自分の神経質な性格が嫌になるギルバートだが、まぁそれを今更嘆いても仕方あるまい。


【シャーロット、目にものを見せてくれるわ!】


                  ◇◇◇


 ガルドはギルバートからの指令をすぐさま騎士達に知らせた。せっかく組んだ編成を一度解き、また一から組みなおす。


「遅くまでお疲れさま」

「サイラスか。ああ、お疲れ」


 騎士団の執務室で一人残業をしていたガルドの元に、サイラスがお茶を持ってやってきた。


「組みなおしだって?」

「ああ。だが、俺もその方が良かったと思う。王子は今回の戦争にアルバが参戦してくると言っていた」

「どういう事?」

「そのまんまさ。だが、俺はそれで終わるとは思えない」


 ガルドはそう言ってふっと遠い目をする。それを見たサイラスが首を傾げると、ガルドは言った。


「多分、王子はその他にも何か考えているようだ。今日の夕方、部屋にギルを呼んだらしい」

「え!」


 ギルバートがギルを呼ぶときは、決まって何かしでかす時だ。そして、それはいつも誰にも教えない。それはグラウカでも有名な話だ。


「俺は、それすら作戦だろうと思ってる。あえてギルを目立つ時間に呼びつけ、城の中で噂を流す。そうする事で、まだ城の中に居るであろうネズミを混乱させようとしてるんじゃないか、ってな」


 ガルドの言葉にサイラスは深く頷いた。ギルバートは何手も何手も先を読む人だ。そこらかしこに罠を張って動く。


「そうかも。今頃ネズミは翻弄されてるんじゃない? 国に伝えるべきかどうかを、さ」


 そう言ってサイラスは持ってきたお茶を、感心しながらガルドと飲んだ。            

                ◇◇◇


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