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第3話 ギルドへ行こう

 手を繋いで歩きながらロサはふと周囲の視線に気づく。


 え〜と。何かわからないけどすごく視線を感じる。すれ違う人、通りの向こうにいる人、店の中にいる人まで、チラチラとこっちを見ている。


 手を繋いでいるから?


 そういえば異世界転生系ってだいたい慎み深いが当たり前というか、外で手を繋ぐのは夫婦か婚約者だけで、あとは幼い子供に対してのみだ。


 どう考えても後者だろう。なんだか申し訳ない気になっていく。


 でもなんで子供の手を引いてるだけでこんなに見られているんだろう?心なしか女の人のほうが多いし。


 元々シンは広く浅くで友達が多いタイプで、カツアゲにあえば、相手と友達になって帰ってくるような人だった。 だから街で顔見知りが多くても驚かない。


 はずなんだけど、こうも見られると居心地が悪い。


 そういえば……。じっと横を歩くその人を見上げる。


 どこタイミングで声をかけていいかわからなくて何度も口を開こうとするが閉じてしまう。


 改めて見るその横顔。すっと高い鼻に垂れ気味なのにぱっちりとした目。身長は高めなのだろう。見上げないとその顔を見ることは叶わない。


 「シンさん……。迎えに来てくれてありがとう。」


 きちんとお礼を言っていなかったなぁ。と思いつつも相手の行動を観察して、どのタイミングなら相手の邪魔にならずに声をかけられるか。以前のロサならそうしている間にタイミングを失って言えなくなり、時間がたち、今更?のタイミングになることが多々あった。思いやりのつもりだったがどうかすれば無礼なやつという認識を持たれることもあっただろう。誤解だと言いたい。


 だから今世はもう少し上手に生きれたらと思い、ちょっと眉間にシワを寄せ、何事か考え事をしているシンの様子をあえて無視して告げてみた。


 眉間のシワが和らいだところを見ると、思考の邪魔にはなってないようだ。成功と言えるだろう。


 なぜかしばらくじぃっっと見つめられたあとで頭を撫でられた。これではますます『子供と保護者の図』だなぁ。と思った。


 「ロサはもう職業決めたの?」


 「テイマー一択!!」


 「だろうと思った〜。」


 あちらの世界のゲームで遊ぶとき必ずテイマー職があるものしか選んでいなかった。単純にロサが動物や精霊といったコンテンツが好きで、それにシンが合わせる形であっただけなのだが、それが夫婦の定番だった。


 なので自然とテイマー職があるとなればこれなのだろうとシンも思っていたようだ。


 「ところで今からどこに行くの?」


 手を引かれて歩いて入るが目的地を聞いていなかった。昔のパターンを鑑みるにこのまま行くと町外れまでまっすぐ歩き続けるのではないかとういう懸念がある。


 「冒険者ギルドだよ。登録しちゃえばそこの施設に低価格で宿泊もできるしね。」


 「おお!ますますファンタジーですな。」


 「俺も最初そう思った。」


 向けられた笑顔が嬉しいのか、憧れのファンタジー世界が嬉しいのか、自然と足が早まる。


 「このまま真っ直ぐでいいの?」


 「うん、道なりで大丈夫。」


 さり気なくシンが歩道の外側に移動して手をつなぎ直す。こういう所も思えば好きだったなぁ。と改めて思う。歩調を合わせてくれるとこも好き。


 そんなことを考えて自然と口元がニヤける。


 「どうしたの?さっきからニヤニヤしてない?」


 「えっ!?そう?!そうかなぁ〜?念願の異世界が楽しいのかも……?」


 「なんで疑問文?まぁ、いいけど。」


 言えるわけがない。


 97歳にもなって夫が先立ち繋ぐ手が無くなったことが悲しかったとこ、夜になってテレビ見ながら一緒に語らう相手がいない事に寂しさを募らせたこと。朝起きておはようを言う相手がいなくて焦燥感に苛まれたこと。


 だからこそまた隣にいてくれることだけでこんなにも嬉しいだなんて恥ずかしくて口にできるはずがない。


 そんな事を考えていると……。


 「ついた。ここが冒険者ギルドだよ。」


 「夕方のせいか人が多いね〜?それとも王都だから?」


 「この時間はクエスト報告でよく人が出入りするからね。……あの、ロサ?」


 「ん?」


 「もしかしたら俺のせいで知らない人に声かけられるかもしれないんだけど、気を悪くさせたらごめん。」


 「そうなんだ?大丈夫だよ。子供じゃないんだから知らない人にはついていかないよ。他に何か気をつけることとかある?」


 「そういうことじゃないんだけど……いや、大丈夫だと思う。」


 「そう?まぁ、シンはあっちでも顔広かったから今更友達多くても驚かないよ?」


 「ならいいけど……。」


 まだ何かあるのかな?と思いつつも導かれるままにギルドに入った。中はとても賑わっていて、外もまだ明るいというのに酒を飲んでいるんじゃないかと言うほどのやかましさだ。


 その喧騒が次第に引いていく。湖面に投げられた石が輪を作り広がるように、その静寂のさざ波が広がっていく。なぜだ? 


 『シンが女連れてる。』


 『知り合いの子とかじゃないか?』


 『そういや今日朔日だろ。』


 『まさか、じゃぁあれがシンの嫁かよ』


 『うわぁ〜。マジか。』


 遠くで聞こえる囁きに、なぜかごめんなさいと言いたくなる。きっと子供を連れてるシンのことロリコンとか思ってるのかもしれない。


 なんだか申し訳ない。そんなことを思っていると、すっとシンの腕が伸ばされる。


 「ちょっとごめん。」


 「え?あの……。シン?」


 何故かいきなり抱っこされた。しかも左の片腕で器用に抱き上げられて、腕に座るような形になり、落ちないように慌てて肩にしがみつく。


 「カウンター高いから届かないかと思ったんだけど……。」


 「あ、そういうことか。ありがとう。」


 周囲を見渡してこんなに小さい人はいないから、踏み台のようなものも無いのだろうと理解する。届かないから持ち上げた。程度のことらしいが、これではますますシンがロリコンだと噂されないか心配だ。


 「この子の冒険者登録をお願いします。」


 カウンターの女性にシンが声をかけると、少し驚いたあとにニッコリ微笑んで専用の用紙を出してくれた。言われた欄に記入をすると、日本語で書いたつもりなのにちゃんとこっちの文字になってるし、それを読むこともできた。


 「おお。これが異世界補正。なんというご都合主義!」


 「ぷっ……。」


 思わず呟くとすぐそばにあるシンの顔の口元に右手が添えられ肩が震えている。笑いたければ笑えばいいと思う。


 「それと宿泊あいてますか?えっと……。ロサ、部屋一緒で大丈夫?」


 「うん?うん!いいよ。」


 あちらの世界ではシンが逝ってしまうまでずっと同じ布団で寝ていたのだ。なぜ今更そんなことを確認するのか、至極当たり前のように頷く。


 「一部屋お願いします。できれば湯浴み付きの部屋で。」


 「あ、私着替えないよ?お店どこかあいてるかな?」


 カウンターで部屋の鍵を受け取るシンに小さく囁くとゆっくりと頷かれる。


 「じゃぁ、このまま買い物にいこう。ついでに何か屋台で食べようか。」


 「屋台!楽しそう〜こっちではどんなのがあるの?」


 「まぁ、その前に買い物ね。」


 「わかった。」


 屋台という単語にすっかり気を取られ、買い物を忘れるとこだった。自分のことなのに。


 店のことはよくわからないので冒険者向けの店ならわかるというシンに任せることにして、冒険者ギルドを出るのであった。

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