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第4話 ギルドへ行こう~シン視点~

 隣を歩くご機嫌の少女。さっき礼まで言われたからビンタは回避できたもようである。


 と、いうかご機嫌どころかニヤニヤしてないか?


 どうやら異世界に来たばかりで見慣れぬものが楽しくて仕方ないようだ。


 キラキラした目があたりを見回している。そのはしゃぐ姿が可愛い。


 初めての街で迷子にならない様(というのは建て前だが)しっかりと手を繋ぐ。


 掌の暖かな体温に自然と笑みが溢れる。そういえばあっちでも通常体温が人より高いから冬はいいけど夏はつらいってよく言ってたなぁ。


 そんな何気ない気付きすら愛しくて、抱きしめたくなる衝動をこらえる。


 流石に路上で突然抱きしめたら変態と言われるかもしれない。少なくともこの世界でエスコート以外で女性に触れるのは不謹慎とされているし、女性から腕を組むのは貞操観念の緩い奔放な女と、レッテル貼られる。いくら元夫婦といえど、路上で抱き締められるのを容認すればそれこそ酷い醜聞になるだろう。ロサにそんな評判がついてしまうのは許せることじゃない。


 少なくとも今はこれで満足せねば。


 そんな俺の葛藤を知らないロサはとても楽しそうだ。


 仕方ないだろう。俺は五年間も待ったんだ。そりゃぁ死んだときは97であっちでは嫁一筋の人生で晩年にはそういうことにはもう興味なかったから、こっちで若い体に生まれ変わってもすぐに、意識が切り替わらなかった。


 若い子が寄ってくれば『子供っぽい』としか思わなかったし、ご令嬢を紹介されても『脂肪の塊』にしか見えなかったし、そういうご職業の店に連れて行かれても『香水が臭い』から不快にしか思えなかった。


 本当に『魂』が存在しているというなら俺とロサは繋がってると断言できる。だってこれを魂が震えると言わずしてなんと表現したらいいんだ。


 あの時、ひと目見てわかったんだ。ずっと待っていたのは、探していたのはこの子なんだって。姿形が変わってもこの子が俺の待ってた百合なんだって俺の体が、魂が全身でそう訴えかけてたんだ。


 ああ、この愛しさをどう伝えたらいいんだろう。どうやったら全部伝わるんだろう。


 そんなことを考えているうちにギルドについたものの、懸念材料が……。 


 さっきの騎士よろしく余計なことを言われなければいいんだが……。


 まるでオリュンポスの神殿を思わせるような入り口は夕方のクエスト報告ラッシュも相まって人が多く出入りしている。


 もう既になにやらチクチクとした視線を感じるがあえて無視する。俺一人ならスカウトの隠密スキル『透過』を使って他人から視認できないようにするが、ロサが一緒となるとそれはできない。隠密スキルは本人のみかかるスキルなのだ。


 3年前にレイド戦に参加してから人目を引くようになってしまった自覚はある。だが、それ以上に今のロサは目立つ。珍しい毛色はもちろん140センチ程の身長はただでさえ男の庇護欲をそそるし、ぱっちりした大きな目に見つめられればその気がなくてもロリコンに鞍替えしたくなるような可愛さだ。


 「子供じゃないんだから迷子になんてならないよ?」


 キョトンとして言うロサがあざと可愛い。や、違うんだ。そうじゃない。キミが迷子にならないのは知ってる。そこじゃない。


 他人に見せたくない。と、いうわけにもいかず……。


 ひとまずの注意事項を話して中に入る。今日も騒がしいギルドの中が案の定静かになってヒソヒソと話し声がする。


 『うわっ何だあれ子供か?!』


 『ちっさ!かわいい!また変わった毛色してんなぁ。』


 『って、横にいんの隠密王子じゃねぇか、くっそぉ〜。あいつだけずり…い!?』


 『ってあんだけ女に寄って来られてスルーしてたのにまさかの子供主義だったのかよ!?そりゃ誰も相手にされねぇわけだ。』


 『や、あれだけ美形の子供なら俺はありだ。』


 なにやら不穏な言葉が聞こえてきた。


 特に不服のある『隠密王子』という二つ名。恥ずかしくて仕方ない。最初に言い出したやつブン殴りたい程に不名誉だ。


 取り敢えず禁句である二つ名を口にしたやつには殺気を飛ばしておいた。


 俺が隣にいて尚もロサに邪な目を向けている輩がいるようなので、俺のモノだと主張するようにロサに向かって手を伸ばした。


 さすがの行動にロサも驚いているようだったが、カウンターの高さがどうのとこじつけて腕の中に閉じ込めた。左腕に座る形で抱き上げて右手で腰を抱いてカウンターの受付嬢に話しかける。


 もちろん先程ロサに不埒な視線を送ったやつにも殺気を飛ばすことを忘れない。


 そんなことをしていると、バランスを取るためかロサの小さな手が縋るように俺の肩のあたりをぎゅっと掴む。


 なんだこれ可愛すぎだろう。自分の仕草がどれだけ俺を刺激してるか分かってんのかねこの人は。


 しかも言動が時々面白い。


 ああ、ヤバい。嫁好き。簡単には言えないけど……。


 カウンターの用事ついでに部屋を確保しようとして気づく。魂は元夫婦だがお互い体は清い関係である。果たして同じ部屋でいいのか?嫌がられないか?と思いつつ、確認すれば凄い笑顔で同じ部屋でいいと言われたのが嬉しくてつい、部屋のグレードを少し上げて浴場がついた部屋を押さえた。


 すると少し赤みの指した顔で恥じらいつつ、小声で着替えがないと告げられる。


 どうしよう。可愛いのですが。


 じゃなくて。転生初日なのだから何も持ってなくて当たり前だろう。確かよく行く服屋に女性物も扱っていたはずだから行ってみようと返せばニコニコと頷かれる。


 あ〜ヤバイ。なにその顔。着替えどころかなんだって買ってやりたくなるじゃん。チクショウ。これが惚れた弱みってやつか。


 流石に外で抱っこはまずかろうと地面におろすと、当たり前のようにロサの方から手を繋がれる。それが嬉しくて思わずギュッと握り返す。


 道を歩きながらロサに職業を何にしたか訪ねたら迷いなくテイマーと答えられた。予想通りに笑いを堪える。


 あっちの世界でロサは大の動物好き。もふもふした生き物が好きで、いつか狼飼いたいと何度も呟いていた。


 「サブ職業は?」


 「まだ決めてないの。シンのサブ職聞いてから決めたほうが相性いいかと思って。」 


 え?何その回答。俺に合わせてくれようとしたのか……。せっかくの異世界なんだから自分の好きなことにすればいいのに。


 とかなんとか言いつつもニヤけが止まらなくてあさっての方向を向いて誤魔化す。


 「そういえばシンは職業なににしたの?」


 「俺はスカウトだよ」 


 「スカウト……弓?短剣?」


 「短剣。あ、そうだ。」


 ゴソゴソとアイテムバッグをあさり、目当てのものを取り出す。


 「ロサはきっとテイマーを選ぶと思ってとっていたんだ。俺が使ってたやつで悪いけど、短剣の初期武器。俺はもう使わないからあげるよ。」


 ちょっと使い込まれ汚れて歪にはなっているが、革製の鞘に収まったそれを差し出した。


 「いいの?本当に?大事にとってたとかじゃない?」


 心配そうに短剣を見つめてなかなか受け取ってくれない。う〜ん。どうしたものか。


 スカウト職の短剣はニ本一対で使うが、テイマーは従魔が近くにいないときでも身を守るために短剣を一本使用できるのだが、職は違えどそれぞれの短剣は同じものなので譲渡しても使用できるのだ。


 もちろん初期武器なんて俺はもう使わないわけだけど、俺の手元に残してる一本と密かにお揃いってことはあえて黙っておく。


 「記念用なら同じものはもう一本あるし、バッグの空きができるから貰ってくれると助かるんだけど。」


 「……わかった。そういうことならありがたく使わせてもらうね。ありがとう。」


 しばらく短剣を見つめていたけど、もしかして考えてることバレたかなぁ。としどろもどろしつつ、再び差し出せば手の中が軽くなって安堵するのだった。

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