ギルドを出て歩いてしばらく会話を楽しんでいるとおもむろに短剣を出された。どうやらくれるということらしい。
いくら気心知れた元夫婦と言えど甘えてしまっていいのだろうか?
しかも記憶違いでなければシンは物を大切にする人で愛着あるものはずっと保管しておくタイプの人だから余計に受け取りにくい。
そんな様子を察してかバッグを圧迫してるからもらってくれる方が助かるとか、記念用なら同じものがもう一つあるからいいって、お揃いですか!?まさかの武器でお揃いですか!?初期武器だけど。
口がにやける。
そのにやけを抑えながらありがたく受け取ることにする。
そのまま二人で歩き続けて目的の店にたどり着く。
連れて行ってもらったお店は入って右に女物、左に男物、奥の壁際に履物類。それほど広くないはずの店内にうまく配置してある。
せっかく若返ったのだから可愛い格好をしたいものだ。
あちらの世界にいるときはその世代にしては身長が高い方だった。思春期真っ盛りのおしゃれをしたい時期だというのに、身長があって可愛い服やパステル系は全く似合わないし、靴なんてサイズが合うものを探すだけで店を5軒は回らないと見つからないし、運良く見つかったからと言ってそれが気に入るデザインとも限らなかった。
だからこっちの世界では気にせず好きな物を選びたい。
しかし、そこまで考えてハタと気づく。
私今の自分の外見がどうなっているのか知らないから何が似合うのかもわからない。せめて鏡があればいいんだけど。
そう思ってキョロキョロしていると店内の角っこにお情け程度に置かれている細い姿見を見つけた。
吸い寄せられるようにゆっくりとその鏡に近づいていくと、あまりにも細くてその鏡に体の全部は写り込まないどころか半分も厳しい。
ぎりぎり顔の真ん中を写して後ろに下がって自分の容姿を確認する。
頭のてっぺんから腰のあたりまで伸びた毛先にかけて水色から薄い青緑のグラデーション。ラピスラズリの瞳は大きくパッチリしていてまつげが影を落としている。血色のいいバラ色の頬にぷっくりとした唇。
今の私ってこんななんだ。
ちょっと自信過剰に言って可愛いぞ。容姿は。
この転生は成功ではなかろうか。と、思ってみたが問題はそこじゃない。
たしかにこの小柄で愛らしい容姿ならばあちらの世界でやれなかったおしゃれができるかもしれない。しかし、この幼い容姿でシンは何とも思わないのだろうか。少なくともあちらにいるときの彼はロリコンではなかった。今この容姿で並んだら大人な美丈夫の彼とバランスが悪くなかろうか。
親戚の子供と仲良く並んでいるようにしか見えないし、あわよくば他人に見えても幼女趣味として彼が後ろ指さされて嫌な思いをさせてしまわないだろうか。
どうしよう。好みじゃなくて愛想つかされちゃうとか?
鏡の前で動けなくなっていると、ちょっとたれ目気味の瞳が鏡越しにこちらを見ている。
「どうかした?」
「あ、ううん。自分の外見知らないと服決めれないから…と、思って。」
「うん。」
「どうかなって。」
「うん。……それで、ロサは何が心配なの?服を選ぶこと?それとも服の買い方?」
鏡の前にきたとたんそんなにわかりやすく落ち込んでいただろうか。そういえばあっちでも私の一喜一憂に誰よりも早く気づいてくれたのはシンだった。その時の状況や様子で声をかけるかどうかは違ったけどちゃんとフォローを入れてくれる人だ。
「え……っと、あの、ね。」
「うん。」
歯切れの悪い言い方にも根気強く言葉を待ってくれている。
「この外見はどうなのかなって。」
「外見?」
「シンは知ってると思うけど、前と全然というか180度違う系統の容姿だし、今初めて確認したから戸惑うというか……。」
「あ~。わかる。俺も最初この顔見慣れなくて鏡見るたび驚いてた。大丈夫、そのうち慣れるよ。それに俺は可愛いと思うよ?」
「ほんとうに……?子供っぽくない?」
「確かに幼いけどそれもいいと思うよ?」
にこやかにそういわれてちょっと安心する。
「それならよかった。」
少なくとも不快感を与えていないならよかった。そう分かっただけで心が軽くなる。それならばこの容姿を生かしたコーディネートをしてもいいだろう。
しかし、あちらの世界でレースやフリフリといったたぐいの服は着たことがなかったので自然とそういうものは避けてしまう。意識的にコスプレ感がすごいなって思ってしまう。異世界なのに。
よし、心配事も減ったので気合いを入れてさっさと選ぼうとハンガーにかけられた洋服に向き合あう。色とりどり形も様々だが冒険者向けの店なのでロングスカートだけということは無く、デザインも様々だ。
ひとまず髪色を考慮して青系の服で統一したものの、あまり好みの型がなかったのでちょっと残念。せっかくなら思いっきり中二病みたいなのがよかった。せっかくの異世界だし。
いっそ作る方向で考えてみるのもいいかもしれない。
洋服と下着にタオルと靴とスリッパに短剣を装着するためのベルトを購入して店を出る。いよいよ屋台だ。
初めての異世界で過ごす夜。一体どんなものが食べれるのかとワクワクしながら店はシンに任せた。
移動式の屋台に入ると出されたのはビーフシチューに黒パン、それから骨付きの肉。
「おおこれが噂の黒パン。どれくらい硬いんだろう?」
「はは。いうと思った。でも近年転生者の食改革があったからそんなにひどくはないよ?」
なんだ残念。とか思いつつもやっぱり気になって一口分千切って口に放り込む。食パンよりは固い。食べれなくもない。もそもそしてるけど。以前はこれよりひどいのか。
そのまま食べるのは諦めてシチューにくぐらせて食べる。パンがよく水分を吸っておいしい。
「確かにこれならスープは必須かも。面白い。」
「他にもいろいろ食べ物はあるんだけどロサはまずこれが食べたいんじゃないかと思って。」
「さすがシンさんはわかってますなぁ。固いパンってフランスパンぐらいしかわからないから一度食べてみたかったの。」
この感動は忘れないうちにどこかにメモっておかねば。どこかに手帳が売っているだろうか。そんなことを思っていた時だった。
「あ、やっと見つけた!シン、今日の討伐成果持ってきたよ。」
「やぁ、こんばんは。ちょっとお邪魔するよ。」
「コンバンハ。」
……だれ?